ウクライナ紛争の裏側で、静かに、しかし確実に広がりつつある脅威、それはAIを用いた偽情報です。今回は、ゼレンスキー大統領夫人にまつわる捏造事件を通して、その巧妙さと深刻さを紐解いていきます。
AI偽情報が拡散：大統領夫人への疑惑
2024年6月、フランスを訪問中のオレナ・ゼレンスキー夫人が、7億円相当の高級スポーツカーを購入したという「スクープ」がSNSで拡散しました。「領収書」とされる画像まで出回り、「ウクライナへの支援はもう止めろ」といった批判の声が湧き上がりました。
キーウの偽情報対策センターの様子
事の発端は、あるフランス語のニュースサイト。ディーラー従業員を名乗る人物の証言動画を掲載していました。しかし、ウクライナ政府の偽情報対策センターは、これがロシアによる巧妙なAI偽動画「ディープフェイク」であり、領収書も偽物であると発表しました。開設間もないニュースサイト、不自然な証言動画、そして拡散の速さ… すべてが計画的な偽情報工作を疑わせるものでした。
ロシアの狙いと「メディア・クローン」の脅威
なぜロシアは、このような偽情報を流すのでしょうか？ウクライナへの支援を揺るがし、国際社会の分断を深めるためです。支援に対する不信感を煽り、ウクライナを孤立させることが彼らの狙いです。
偽情報対策センター所長のアンドリー・コバレンコ氏は、現地メディアを模倣した偽情報サイトを「メディア・クローン」と呼び、警鐘を鳴らしています。AIで生成された記事や偽動画を利用し、巧妙に偽情報を拡散させるネットワークが構築されているというのです。
AI技術の進歩と未来への懸念
欧州デジタルメディア観測所（EDMO）のファクトチェック担当、トマゾ・カネッタ氏は、AI技術の進歩に懸念を示しています。近い将来、AIは真実と見分けがつかないコンテンツを生み出せるようになるでしょう。そうなれば、何が真実で何が虚偽なのか、誰も判断できなくなる可能性があります。これは、社会全体にとって大きな脅威となるでしょう。
偽情報対策センターの職員
今回の事件は、AI技術が悪用された場合、どれほど深刻な影響をもたらすかを示す一例です。情報を見極める目を養い、真実を見抜く力を持つことが、これまで以上に重要になっています。偽情報に惑わされず、冷静に情報を分析し、真実に基づいた判断をするよう心掛けましょう.
