ロシアによるウクライナ侵攻の長期化を受け、NATO加盟国ではロシアとの武力衝突の可能性に備えた動きが加速しています。数年後との見方もある中、静かに、しかし着実に防衛線の構築が進められています。
ロシアの脅威とNATOの対応
ロシア連邦情報局のカール長官は、ロシアが西側諸国との戦争準備を進めていると警告を発しました。大規模なNATO加盟国への侵攻は低いとしながらも、限定的な侵攻やサイバー攻撃などを組み合わせたハイブリッド戦の可能性を指摘しています。NATOはあらゆるシナリオを想定し、対応策を練っています。
ポーランドのトゥスク首相が視察する「竜の歯」
欧州委員会のクビリウス防衛担当議員は、プーチン大統領が6~8年以内にNATOやEUと対決する可能性があると発言。エストニア対外情報機関も、ロシアが軍再建に成功すれば、10年以内にNATOは赤軍スタイルの大規模軍隊と対峙する可能性があると警告しています。これらの警告を受け、NATO諸国は対応を急いでいます。
バルト三国の防衛戦略
バルト三国(ラトビア、リトアニア、エストニア)は、国境防衛強化の協定を締結。特にリトアニアは、ロシアの飛び地カリーニングラードとベラルーシに挟まれた地理的条件から、NATOの弱点とされています。「スバウキ回廊」の重要性も認識されており、その防衛はNATOの集団防衛義務に直結します。
エストニアは国境沿いに塹壕、兵站基地、補給路のネットワークを構築。リトアニアはカリーニングラード国境付近の橋を封鎖し、「竜の歯」と呼ばれる対戦車要塞を設置しました。ラトビアも同様の防衛体制を構築中で、5年間で約3億300万ユーロを東部国境の防衛強化に投資する計画です。
東ヨーロッパにおける防衛線の強化
ポーランドは25億ドル以上を投じて、「イーストシールド」と呼ばれる防衛施設をカリーニングラードとベラルーシ国境に建設しています。これはポーランド東部国境、ひいてはNATOの東側面を強化する最大の作戦とされています。
ポーランドの「イーストシールド」
トゥスク首相は国境を視察し、建設中の要塞を確認。「イーストシールド」は、ウクライナでの戦闘の教訓を活かし、竜の歯のような伝統的な要塞に加え、電子戦技術や監視システムも活用した堅牢な防衛線となります。地政学評議会のフリーア研究員は、この防衛線によってロシアの攻撃を抑止する狙いがあると分析しています。
ラトビア軍は、ソ連時代に開発されたT-55戦車を用いてバルト防衛ラインの強度テストを実施。対戦車障壁は効果を発揮し、コンクリートブロックは人々とインフラを直接的な攻撃から守ることに成功したと報告されています。
ドイツも首都ベルリンの重要施設の遮蔽計画を策定。ヨーロッパ東部への軍隊移動ルート確保についても検討を進めていると報じられています。「作戦計画ドイチュラント」と呼ばれる戦略文書は1000ページにも及ぶ大規模なものとなっています。
ウクライナ紛争の長期化は、ヨーロッパ全体の安全保障環境を大きく変化させました。NATO加盟国は、ロシアの脅威を深刻に受け止め、防衛力強化に奔走しています。今後の情勢の推移が注目されます。