世界経済の中心を担ってきたドル基軸体制に動揺の兆しが出ている。トランプ米政権が高関税を次々と発動し、ドルの下落基調が鮮明になる中、大型減税による債務膨張や連邦準備制度理事会(FRB)への度重なる利下げ要求も米国の信認を揺るがしかねない。国際金融秩序は試練にさらされている状況だ。
高関税が招くドルの弱含み
トランプ政権発足以降、主要通貨に対するドルの強さを示す「ドル指数」は継続して低下している。特に、ほぼ全ての貿易相手国・地域に対する相互関税が発表された4月2日以降、ドルの弱さが際立っている。元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのオブストフェルド氏は、高関税は米国の貿易を確実に縮小させ、「ドルの国際的な役割を制限する」と警告を発している。
FRBへの圧力と増大する債務リスク
トランプ氏によるFRBへの執拗な利下げ要求も、ドルの信認を損なう可能性がある。インフレ再燃を警戒し、金融緩和に慎重なパウエルFRB議長に対し、「まぬけ」と罵倒し、即時辞任を迫るなど、あからさまな政治圧力は、「ドルの番人」であるFRBが築き上げた市場の信頼を蝕んでいる。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(左)とトランプ大統領。FRBへの政治的圧力はドルの信認に影響する。
さらに、最近成立した大型減税関連法も米国債の信用を圧迫している。税収減を補う十分な財源がなく、国債発行の膨張が避けられない見通しのためだ。格付け大手のムーディーズ・レーティングスは5月、財政悪化を理由に米国債の格付けを最上位から一段階引き下げたことを発表した。
市場の反応とドル代替決済の模索
金融市場では、関税政策について「トランプ氏の横暴な振る舞いへの警戒感でドル安が続いている」との受け止めが広がっている。減税に伴う債務拡大リスクも、「ドルを積極的に買う動きにはならない」との見方につながっている。一方、ベセント財務長官は米テレビ番組で、「為替相場はさまざまな要因で上下する」と強調し、米国が長年堅持する「強いドル政策に何の変更もない」と訴えた。しかし、オブストフェルド氏は、トランプ氏の政策が「ドルの中心的役割を脅かす」と言い切っている。BRICSと呼ばれる中国やロシアなどの新興国グループは、米国の金融制裁を回避するため、ドルに代わる決済手段を模索する動きも見られる。
トランプ大統領は8日、「ドル基軸体制を失えば世界大戦に負けるようなものだ」と危機感を示した。「ドルは王様だ。地位に挑戦すれば大きな代償を払うことになる」と述べ、関税を示唆して新興国の動きを牽制した。
【参考資料】
- Original Article (Yahoo News Japan via Jiji Press)