シリア首都ダマスカスの病院で、拷問の痕跡がある遺体が多数発見され、国際社会に衝撃を与えています。この痛ましい事件は、長きにわたるシリア内戦の残酷な現実を改めて浮き彫りにし、紛争終結後も続く人権侵害の深刻さを示しています。
遺体発見の経緯と状況
反アサド政権勢力は10日、ダマスカスのハラスタ病院の遺体安置所で、拷問を受けた痕跡のある約40体の遺体を発見したと発表しました。遺体は白い布で覆われ、顔や胴体には傷やあざが確認され、番号や氏名が書かれたテープが貼られていました。遺体の腐敗の程度は様々で、どれだけの期間放置されていたかは不明です。
alt: ダマスカス病院の遺体安置所で発見された、白い布に覆われた多数の遺体。番号や名前が書かれたテープが貼られている。
反体制派グループのメンバーであるモハメド・アル・ハジ氏は、病院職員からの情報提供を受け、遺体安置所を訪れた際の衝撃的な光景を語っています。「遺体安置室のドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、おぞましい光景だった」と、ハジ氏はAFP通信に証言しました。その後、遺体は身元確認のため、シリア赤新月社の協力のもと、ダマスカスの別の病院に移送されました。
サイドナヤ刑務所との関連性
これらの遺体は、ダマスカス北部に位置する悪名高いサイドナヤ刑務所に収容されていた人々である可能性が高いと、シリアのNGOは指摘しています。サイドナヤ刑務所は、アサド政権による拷問や処刑が行われていた場所として、長年人権団体から非難を受けてきました。
トルコに拠点を置く「サイドナヤ刑務所拘束者・行方不明者協会(ADMSP)」の共同設立者ディアブ・セリヤ氏は、ハラスタ病院がサイドナヤ刑務所やティシュリーン病院からの遺体を収容する中継地点として機能していた可能性を示唆しています。ADMSPは、サイドナヤ刑務所には依然として数千人が拘束されていると主張し、10月28日付の公式文書を公開しました。この文書には、4300人が拘束されているという記録が残されています。
シリア内戦における人権侵害の実態
イギリスに拠点を置くNGO「シリア人権監視団(SOHR)」は、アサド政権下の刑務所で約6万人が拷問され、殺害されたと報告しています。また、アムネスティ・インターナショナルを含む複数の人権団体は、シリア内戦勃発以降、10万人以上が行方不明になっていると指摘し、アサド政権による組織的な人権侵害を非難しています。
ADMSPの2022年の報告書では、2011年から2018年の間に、サイドナヤ刑務所で3万人以上が処刑されたか、拷問、医療の欠如、または飢餓によって死亡したと推定されています。
反体制派の対応と今後の展望
反体制派「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)」の指導者アブ・モハメド・アル・ジョラニ代表は、政治犯への拷問を監督した元高官らの法的責任を追及する姿勢を示し、名前の公表や強制送還を進める方針を明らかにしました。
今回の事件は、シリア内戦の終結後も続く人権侵害の深刻さを改めて示すものとなり、国際社会からの更なる調査と対応が求められています。シリアの人々の苦しみを軽減し、真の平和と正義を実現するためには、国際社会の継続的な努力が不可欠です。