韓国では夫婦別姓が長年維持されてきましたが、その背景には複雑な歴史的・文化的要因が絡み合っています。本記事では、韓国の夫婦別姓制度の現状と、それにまつわる人々の葛藤や課題について深く掘り下げていきます。
伝統的な家族観と夫婦別姓の根深い繋がり
韓国の夫婦別姓は、19世紀末以降、日本統治時代末期の短期間を除き、現在まで続いています。この制度は、東アジアの中でも特に「男性中心的」と言われる伝統的な家族制度と密接に関係しています。例えば、長男相続の慣習や、一部地域に残る法事への女性の参加制限など、男性優位の社会構造が根強く残っていることが、夫婦別姓の維持に繋がっていると言えるでしょう。 食文化研究家の金泰亨氏も「韓国の食文化においても、祭祀などの伝統行事は男性中心で行われることが多く、姓氏はその象徴として重要な役割を担っている」と指摘しています。
韓国の伝統的な家屋
子どもの姓と揺れる親の想い
韓国の民法では、「子どもの姓は父親の姓と本貫(本籍地)を引き継ぐ」と規定されています。仮に尹錫悦大統領と金建希夫人に子どもがいた場合、自動的に「尹」姓を継承することになります。母親の姓に変更するには、婚姻届提出時に手続きが必要となります。 この規定に対し、近年では疑問の声も上がっています。2024年5月に結婚した陳叡貞さん(33)は、子どもの姓について葛藤を抱えています。「夫も私も父親の姓を無条件に継承することに違和感があった」と語る陳さんですが、結婚準備の忙しさから、両親を説得する余裕がなかったといいます。 家族法専門家の李美淑弁護士は、「若い世代を中心に、姓氏に関する意識の変化が見られる。伝統的な価値観と個の尊重の間で、多くの人が悩んでいる」と分析しています。
世界の夫婦別姓制度と日本の現状
夫婦別姓に関する規定は国によって様々です。アメリカでは、結婚後の女性が旧姓を維持できる州がほとんどですが、ピュー・リサーチ・センターの2023年9月の報告書によると、異性婚をした女性の79%が夫の姓を選択しているというデータもあります。 日本では、夫婦別姓が認められていない現状に対し、様々な議論が展開されています。 選択的夫婦別姓制度に関する国際比較研究の第一人者である朴哲洙教授は、「各国の制度にはそれぞれの歴史的・文化的背景がある。単純な比較ではなく、それぞれの社会状況を踏まえた議論が必要だ」と強調しています。
現代社会における夫婦別姓の課題と展望
韓国の夫婦別姓制度は、伝統的な家族観と現代社会の価値観の狭間で揺れ動いています。 少子高齢化や女性の社会進出など、社会構造の変化に伴い、姓氏制度に対する意識も変化しつつあります。今後の韓国社会において、夫婦別姓制度がどのように変化していくのか、注目が集まっています。