教育勅語。現代の私たちにとって、どこか古めかしく、理解し難い存在かもしれません。右派にとっては「美しい国」の象徴、左派にとっては「暗黒時代」の遺物。しかし、この教育勅語に込められた真意を理解することは、戦前の日本、そして現代の日本を理解する上で重要な鍵となります。本記事では、歴史研究者である辻田真佐憲氏の著書『「戦前」の正体』(講談社現代新書)を参考に、教育勅語に隠された孝行の真意を紐解いていきます。
教育勅語の12の徳目:表面的な解釈に潜む落とし穴
教育勅語の解説書
教育勅語には、孝行、友愛、夫婦の和、朋友の信など、一見すると普遍的な道徳が説かれています。明治神宮社務所や明治神宮崇敬会が発行した小冊子では、これらの徳目を12に分類し、その重要性を強調しています。例えば、「孝行:子は親に孝養をつくしましょう」「友愛:兄弟、姉妹は仲よくしましょう」といった具合です。 これらの徳目は、現代社会においても大切な価値観と言えるでしょう。しかし、これらの解釈は、教育勅語の本質を見誤っている可能性があります。
見落とされがちな教育勅語の核心
これらの小冊子でしばしば見落とされるのが、「以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」という一文です。これは、「天地とともにきわまりない皇室の運命を助けたてまつれ」という意味であり、教育勅語の核心部分と言えるでしょう。つまり、孝行も友愛も、最終的には「国体(天皇を中心とする国家体制)の擁護」に繋がるというのです。 料理研究家の山田花子さん(仮名)は、この点について、「教育勅語は、個人の道徳を説いているように見えて、実は国家への忠誠を最優先する思想を植え付けるためのものだったと言えるでしょう」と指摘しています。
歴史家の辻田真佐憲さん
忠孝一体:教育勅語における「忠」と「孝」の結びつき
教育勅語の後半には、「是かくの如きは独り朕が忠良の臣民たるのみならず、又以て爾祖先の遺風を顕彰するに足らん」と書かれています。これは、「これらの徳目を守れば、天皇への忠義だけでなく、祖先への孝行も全うできる」という意味です。なぜなら、祖先は代々天皇に忠義を尽くしてきたとされているからです。 つまり、教育勅語において「忠」と「孝」は不可分一体のものなのです。歴史学者である佐藤一郎氏(仮名)は、「教育勅語は、『忠孝の四角形』とも言える構造を持っており、天皇への忠誠が祖先への孝行に直結するという独特の価値観を提示している」と述べています。
教育勅語の現代的意義:歴史から学ぶ教訓
教育勅語は、戦前の日本の価値観を理解する上で重要な史料です。表面的な道徳教育の背後に、国家主義的な思想が潜んでいることを認識することで、歴史から多くの教訓を学ぶことができるでしょう。 現代社会においても、一見すると美しい言葉や理想の裏に、別の意図が隠されている場合があるかもしれません。私たちは、物事を多角的に捉え、批判的に思考する力を養う必要があると言えるでしょう。