アフガニスタンで、タリバン政権による女子教育禁止措置が医療系教育機関にも拡大され、将来の女性医療従事者の育成が断たれる危機に直面しています。この措置は、既に深刻な医療体制不足に悩むアフガニスタン社会に更なる打撃を与えると懸念されています。
女性医療従事者への道閉ざされる
2022年に女子の大学教育を禁止したタリバン政権。医療系は例外とされていましたが、2024年12月、その例外措置も撤回される方針が打ち出されました。これにより、多くのアフガニスタン人女性の未来への希望が断たれてしまいました。首都カブールの医療系大学で看護学を学ぶサジャさん(仮名、22歳)もその一人。「女子に生まれたという罪ですべてを奪われた」と、将来への不安を吐露しています。
altカブールにある私立病院の新生児室。女性医療従事者の活躍の場が狭まっている。
複数の医療系教育機関の関係者は、タリバンの最高指導者からの指示により、保健省担当者から口頭で女子学生への教育禁止を通告されたと証言しています。しかし、正式な文書での通知はなく、現場は混乱を極めている状況です。
3万5千人の女性たちの未来は?
保健省の情報筋によると、現在アフガニスタンには約10校の公立、150以上の私立の医療系教育機関があり、約3万5千人の女性が看護、助産、歯科、研究などの分野で学んでいます。NGOノルウェーアフガニスタン委員会(NAC)も保健省と共同で女性医療従事者の育成事業を行っており、588人の女性が学んでいましたが、授業の「一時中止」を通告されました。NACの担当者、テリエ・マグヌッソン・ワッタルダル氏は、口頭での指示とはいえ従わざるを得ないとしながらも、タリバン政権内にもこの決定に反対する声が上がっていることを明かしています。特に産科を学ぶ学生たちの学習意欲は高く、ワッタルダル氏は「多くの若い女性が助産師を目指しているのは、出産で命を落とした母親や親族の姿を目の当たりにしてきたから」と説明しています。
国際社会からの懸念
アフガニスタンの妊産婦死亡率と乳児死亡率は世界で最も高い水準にあります。国連を含む国際機関は、アフガニスタンの女性たちが「ジェンダー・アパルトヘイト」の犠牲になっていると指摘し、女性を医療分野から排除する政策は壊滅的な結果をもたらすと警告しています。東京大学大学院医学系研究科グローバルヘルス政策学分野の鈴木先生(仮名)も、「医療へのアクセスが更に制限され、多くの女性や子どもたちが健康被害を受ける可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
資格があっても仕事がない
アサルさん(仮名、20歳)は、最近前倒しで学位資格を取得しましたが、女性への就労制限が強化されているアフガニスタンでの就職活動は困難を極めています。「医療を実践し、もっと研究を続けたい」と語るアサルさんの言葉からは、将来への不安と諦めが垣間見えます。「私たち女性は、いろいろなものをすでに奪われてきた。この次は、息をすることさえ許されなくなるだろう」と、彼女は嘆きます。
タリバン政権による女子教育禁止措置は、アフガニスタンの医療体制の崩壊を加速させるだけでなく、女性の人権を著しく侵害する行為です。国際社会は、アフガニスタン女性の人権と健康を守るため、更なる支援と働きかけを強化する必要があります。