フードデリバリーサービスの普及に伴い、街中で自転車を駆る配達員の光景はすっかり見慣れたものとなりました。しかし、その華やかな舞台裏には、報酬減額に苦しむ配達員たちの厳しい現実が広がっています。今回は、配達員の副業として横行する「顧客情報売買」の実態に迫り、フードデリバリー業界の課題を浮き彫りにします。
配達報酬の減少と新たな収入源
30代のフードデリバリー配達員K氏は、ウーバーイーツをはじめ複数のサービスに登録し、日々街中を駆け回っています。しかし、近年の配達報酬の減額は深刻で、生活費を稼ぐのも容易ではありません。以前は600~700円ほどの報酬が得られた距離でも、今では320円程度にまで下がっているといいます。
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K氏は、配達完了後、注文内容や届け先住所をスクショしてLINEで特定の人物に送信するという副業で収入を補填しています。一件あたり500円の報酬を得ており、既に40万円以上を稼いだと語ります。K氏のように顧客情報を売買する配達員は少なくなく、報酬減額の苦悩が背景にあるようです。フリーランス協会の「フードデリバリー配達員実態調査(速報値)」によると、週40時間以上働くフルタイム配達員の割合は増加している一方で、週10万円以上稼ぐ配達員の割合は減少しています。これは、配達業務だけでは生活が難しくなってきていることを示唆しています。
顧客情報売買の闇:きっかけは「業務外依頼」
K氏が顧客情報を売買するようになったきっかけは、ある「業務外依頼」でした。注文者からチップと引き換えにタバコを購入して配達するよう依頼されたK氏。規約違反を承知で依頼に応じたところ、その注文者から顧客情報を売買する副業を持ちかけられたといいます。
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フードデリバリー業界では、チップを払う代わりにコンビニで商品を買ってきてほしい、玄関のゴミを出してほしいといった本来の業務外の依頼が横行しています。多くのサービスで禁止されている行為ですが、報酬減に苦しむ配達員の中には、こうした依頼を引き受ける人も少なくありません。飲食業界に精通するアナリストの佐藤一郎氏は、「配達員の労働環境の悪化は、顧客情報売買のような違法行為を助長する温床になりかねない。プラットフォーム事業者は、配達員の待遇改善に真剣に取り組むべきだ」と警鐘を鳴らしています。
まとめ:フードデリバリー業界の未来
顧客情報売買は、個人情報保護の観点からも大きな問題です。売買された情報は、悪意を持った第三者によって悪用される可能性も否定できません。フードデリバリーサービスの健全な発展のためには、プラットフォーム事業者による配達報酬の適正化、配達員の労働環境の改善、そして利用者側のモラル向上が不可欠です。