鈴木農水相「コメ価格は市場で決まる」発言の真意:消費者の苦悩と「コメ離れ」

日本の食卓に欠かせないコメの価格が高騰を続ける中、鈴木憲和農林水産大臣の「コメの価格はマーケットの中で決まるべき」との発言が波紋を広げています。消費者が物価上昇に苦しむ一方で、大臣が価格下落の懸念を強調する背景には何があるのでしょうか。本稿では、鈴木農水相の市場主義的な姿勢と、それに伴う消費者の反応、そして深刻化する「コメ離れ」の実態に迫ります。

鈴木農水相が貫く「市場主義」の姿勢

鈴木農水相は、就任会見以来、コメの価格について繰り返し「マーケット」という言葉を用いています。彼の発言の根底にあるのは、コメの過剰生産が供給過剰を引き起こし、最終的に「マーケットメカニズムで米価は下がる」という強い危機感です。これは、いたずらに生産を増やして価格を下げるよりも、むしろ「コメ価格の下落・暴落」を防ぐことに重点を置く方針を示唆しています。

10月24日の会見では「最後はマーケットで決まっていく」「価格というのは、まさに需給のバランスとマーケットで決まる」と述べ、さらに11月11日には「価格については、まさにこのマーケットでしっかりと決まっていく」、11月18日には「いずれにしても価格はマーケットの中で決まっていくものであります」と、一貫した見解を表明しています。これらの発言からは、アダム・スミスが提唱した「見えざる手」による自由競争を重視する経済思想が色濃く見て取れます。

過去最高値を更新するコメ価格と大臣の受け止め

農林水産省は11月14日、全国のスーパーにおけるコメ5キロの平均販売価格が4316円に達し、過去最高を更新したと発表しました。この状況を受け、11月18日の大臣会見で記者がコメ高騰に対する受け止めを質問した際、鈴木農水相は「いずれにしても価格はマーケットの中で決まっていくものでありますので、大臣としての立場で何か申し上げません」と明言を避けました。

鈴木憲和農水相が会見でコメ価格について語る様子鈴木憲和農水相が会見でコメ価格について語る様子

この発言は、消費者からは「コメの価格はマーケットで決まるのだから、私は何もしない」という「無為無策」と受け取られ、インターネット上では批判の声が多数上がっています。特に都市部ではコメ5キロが5000円台が当たり前となり、中には6000円台で販売されるケースも散見され、物価上昇に苦しむ一般家庭にとっては非常に厳しい価格帯となっています。

「無為無策」批判と加速する「コメ離れ」の実態

コメ価格の高騰は、消費者の購買行動に顕著な変化をもたらしています。一部の消費者は、5キロ3000円台のカリフォルニア米に切り替える動きを見せ、さらに多くの人々がコメ以外の炭水化物、特にパスタやうどんで食事を済ませるようになっています。

SNS、特にX(旧Twitter)では、「スーパーでコメの棚は誰もいないのに、パスタの棚には人だかりができている」「パスタ売り場が倍の面積になった」「パスタソースに使うトマト缶が売り切れ」「うどん玉の争奪戦が起きている」といった投稿が相次いでいます。これらの状況は、日本人の食生活において、大規模な「コメ離れ」が急速に進行していることを物語っています。大臣の「マーケット」への信頼と、消費者の現実的な苦境との間に、大きな乖離が生じている現状が浮き彫りになっています。

結論

鈴木憲和農林水産大臣の「コメ価格は市場で決まる」という信念は、コメの価格下落を防ぐという政策目標と一貫しています。しかし、その一方で、過去最高値を更新するコメ価格は消費者の家計を圧迫し、「無為無策」との批判を招いています。市場原理を尊重する姿勢は経済学的には理解できるものの、国民の食を支える重要な農産物であるコメにおいて、現行の高騰に対する具体的な対応が見られないことは、結果的に消費者の「コメ離れ」を加速させる要因となっています。政府には、市場メカニズムの尊重と同時に、国民の生活に寄り添った実効性のある対策が求められています。


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