アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所。その名は、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺の象徴として、世界中に知られています。想像を絶する悲劇の舞台となったこの地で、今、一人の若いユダヤ人女性が暮らしています。彼女はなぜ、この場所を選んだのでしょうか?そして、現代社会における反ユダヤ主義の現状とは?この記事では、ポーランド・オシフィエンチムに住むヒラ・ワイスグートさんの物語を通して、歴史の記憶と現代社会の課題に迫ります。
祖母が収容されたアウシュビッツで暮らす決意
アウシュビッツ強制収容所の入り口
ワイスグートさんの祖母は、ハンガリーからアウシュビッツへ強制移送され、ガス室送りにされました。彼女は奇跡的に生き残り、戦後もその体験を語ることはありませんでした。ワイスグートさんは、祖母の沈黙の重みを感じながら、2023年にポーランド人の夫と共にオシフィエンチムへ移住しました。この選択は、多くのユダヤ人やイスラエル人から疑問の声や非難を浴びることになりました。しかし、ワイスグートさんにとって、この町にユダヤ人の存在を示すことは、大きな意義を持つ決断でした。
温かい隣人との交流と高まる反ユダヤ主義の脅威
オシフィエンチムの住民は、ワイスグートさんに温かく接し、安息日の挨拶を交わすなど、親切に彼女を受け入れてくれました。彼女は、隣人との間に反ユダヤ主義にまつわる問題は一度もなかったと語っています。しかし、世界では反ユダヤ主義の台頭が深刻な問題となっています。パレスチナ自治区ガザ地区での紛争や一部地域での極右勢力の伸張などがその背景にあるとされています。欧州基本権機関(FRA)の報告によると、2023年10月のイスラエルでのテロ攻撃以降、反ユダヤ主義関連の事件が急増しているといいます。
ユダヤ人博物館で働くワイスグートさんの使命
博物館の訪問者に説明をするヒラ・ワイスグートさん
現在、ワイスグートさんはオシフィエンチムのユダヤ人博物館で働いています。かつてこの地域で栄えていたユダヤ人コミュニティの歴史を、イスラエル人観光客に伝えることが彼女の使命です。彼女は、この町で唯一のユダヤ人として、歴史の記憶を未来へ繋ぐ役割を担っています。
2023年のハマス攻撃と高まる偏見
2023年10月、ハマスによるイスラエルへの攻撃は、ワイスグートさんに大きな衝撃を与えました。彼女は、欧州で高まる反ユダヤ主義の脅威を改めて認識し、ロンドン旅行中に六芒星のネックレスを外したり、ヘブライ語のタトゥーを隠したりするなど、身の安全を守るための行動をとるようになりました。英国やフランス、ドイツなど、欧州各国で反ユダヤ主義の事件が増加しており、特にオンライン上でのヘイトスピーチが深刻な問題となっています。
歴史の記憶を未来へ:ワイスグートさんの決意
ナチス・ドイツと深い関わりを持つオシフィエンチムで、ユダヤ人として生きるというワイスグートさんの決意は、歴史の記憶を風化させないための強い意志の表れです。彼女は、「私たちは、ナチスがユダヤ人を絶滅させようとしたが失敗したことを示すためにここにいる」と語っています。ワイスグートさんの存在は、過去の悲劇を繰り返さないための力強いメッセージとなっています。