27日のニューヨーク株式市場では半導体大手のNVIDIAを筆頭に、ハイテク株が大幅に下落した。引き金を引いたのは中国の新興企業が開発した生成AI「DeepSeek」で、米中のAI開発競争の構図を一変させる「ゲームチェンジャー」ではないかとの見方も出ている。いったい、何が起きているのか?
■無名の生成AIアプリが米国内でも1位に
27日のアメリカのアプリストアで、ダウンロード人気ランキングの首位に立っているのが、これまでアメリカでも全く無名だった中国発の生成AIアプリ「DeepSeek」だ。
「ChatGPT」にそっくりの使用感で、英語はもちろん、日本語でも使用することができる。
■ケタ違いに低い開発費用 巨額の投資は不要に?
世界が衝撃を受けた最大の理由は、開発コストが「ChatGPT」などこれまでの生成AIに比べてケタ違いに低かったことだ。「DeepSeek」はモデル開発にかかった費用が約560万ドル=約8億6000万円で、開発期間も2か月ほどだったと、24日にアメリカの経済専門チャンネル「CNBC」で伝えられた。折しも、トランプ大統領は就任早々、アメリカでのAI開発にソフトバンクなど3社が合同で5000億ドル=78兆円を投資するという共同事業「スターゲート」を華々しく発表したばかり。これまでAI開発競争は巨額の設備投資こそが競争力の源泉だとみられてきたが、「DeepSeek」が主張するように低コストで高性能のAIが開発できるのであれば、前提が一変することになる。
■アメリカによる対中国半導体規制も効いていない?
「DeepSeek」は開発に使用したのも安価で性能の低いNVIDIA製の半導体「H800」だとしている。この半導体も現在、アメリカによる中国への輸出規制の対象に含まれているが、中国が性能の低い半導体で高性能のAI開発を実現したとすれば、中国とのAI開発競争を繰り広げているアメリカにとって座視できない事態だ。
また、最先端の半導体開発を一手に担ってきたNVIDIAの成長ストーリーにもにわかに不安が広がり、株価が下落することとなった。
■旧ソ連による人工衛星開発の衝撃「スプートニク・ショック」になぞらえる声も
「DeepSeekはAIでのスプートニクの瞬間だ」
アメリカの有力ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」のアンドリーセン氏が26日、「X」に投稿した文言だ。
今回の事態を人工衛星の打ち上げでソ連の先行を許した1957年の「スプートニク・ショック」になぞらえていて、アメリカメディアでは衝撃の大きさを説明する投稿として幅広く引用されている。
もっとも、これまで大きく値を上げてきたNVIDIAなどハイテク株の現在の株価を踏まえれば、下落は限定的だとの見方もあるほか、「DeepSeek」をはじめとする中国製AIの性能を疑問視する見方もある。本当にアメリカのテック企業の優位が揺らぐような状況になるのか、現時点では予断を許さないが、しばらくは米中両国のAIをめぐる動向が注目される局面が続きそうだ。
TBSテレビ