埼玉県八潮市で起きた道路陥没の主要因である下水道管の老朽化は全国的な問題だ。日本全国に約49万キロの下水道管が敷設されているが、標準耐用年数(50年)を超えている管路は約3万キロ(2022年)に及ぶ。2032年には約9万キロ、2042年には約20万キロに到達するという予測もある。日本全国で進む下水道の“ポンコツ化”。水ジャーナリストの橋本淳司氏に話を聞いた。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
■ 場所によって異なる破損リスク
──八潮市で破損した下水道管は1983年に使われ始めたもので、50年という標準耐用年数には達していませんでした。しかし、全国には標準耐用年数を超えている下水道管もあります。点検・更新作業のハードルも高くなっているのではないでしょうか?
橋本淳司氏(以下、敬称略):標準耐用年数はあくまで減価償却を基準に決まっています。確かに、下水道管が老朽化するとそれだけ破損する危険性も高まりますが、一概に「年数」だけが事故のリスクにつながるわけではありません。
周辺の地質・地盤や交通量の負荷によって、下水道管の破損リスクは変わってきますから、個別の点検・調査が必要です。
──前編で言及されていたように、全国の水道事業者のリソースが限られている中で、どのような点検が有効になってくるのでしょうか。
橋本:現在では24時間、下水道管の管路の中の様子をセンサーとIoT技術によってリアルタイムモニタリング可能なシステムが開発されています。これを設置すると、遠隔からでも異常を検知できるようになります。
──国交省は都道府県別に「腐食のリスクが大きい下水道管の長さ」(2024年9月末時点)を公表していますが、東京都(229km)がトップです。大阪府(163km)や愛知県(182km)など、大都市にリスクが集中しているのでしょうか。
■ もし陥没が豪雨シーズンに起きていたら…
橋本:例えば、東京都は2025年に57.8km、大阪府は15.1km、愛知県は53.1kmの点検計画を立てています。
点検計画の長さが短く、腐食リスクが大きい都道府県が最もリスクが高いといえますが、東京都も大阪府も愛知県も、全ての下水道管に対応できないことは明らかです。
下水道管の老朽化を解決できる最も効果的な方法は「下水道管の更新」、つまり取り替えです。ところが、すでに標準耐用年数を超えた下水道管が数多くあるのに、更新投資はまだ始まっておらず、その議論すらされていません。
今回の道路陥没とそれに伴う救助作業で、埼玉県の12の市町で下水道の使用が制限されています。下水道が止まるということは「(1)町を浸水から守る機能、(2)水環境を守る機能、(3)衛生的な暮らしを守る機能」という3つの機能が失われていることを意味します。
八潮市は標高0.6メートルの町で、ここの下水道管が破断すると、浸水のリスクは当然高まります。もしこれが豪雨シーズンであれば、二次災害が起きていた可能性も高いのです。
環境面に関しては、もうすでに春日部では未処理の下水に塩素が付け加えられ、放流されています。未処理ということは、どんな汚染物質が川に流れているか、わからないという意味です。
最後の点についても、現在、お風呂や洗濯を控えてくださいというお願いが市民に対して出されています。まして、現在はインフルエンザなどの感染症も流行っています。下水道が使えなくなると、普通の生活における衛生環境も悪化するのです。
下水道を普段、私たちは当たり前のように利用していますが、これが使えなくなると、日常生活を送ることさえままなりません。下水道管の更新投資の議論を、今こそ進めなければなりません。
──ただ、前編で指摘されたように、下水道事業はヒトもカネも不足しているという現実があります。