羽田空港近くの「謎のぶつ切れ橋」の正体:首都高の知られざる歴史

東京都心にほど近い羽田空港の西側、海老取川の河口付近に、見る者を驚かせる「謎のぶつ切れ橋」が存在します。まるで途中で寸断されたかのように見えるその異様な姿は、多くの人々がその正体を知らず、ただ立ち尽くし、見入ってしまうほどです。この記事では、都内に隠されたこの珍しい光景、通称「羽田可動橋」の知られざる歴史と、そのユニークな機能に迫ります。

都心近くに突如現れる「異様な光景」

森ケ崎バス停から干潟沿いの遊歩道を海老取川へと歩いていくと、並行して伸びる高速道路の高架橋が見えてきます。しかし、その高架橋には車の気配が全くありません。高架橋の向こうには東京モノレールが走り、海老取川が近づくと対岸には羽田空港の姿も。そんな中、突如として目に飛び込んでくるのが、川の手前で途切れた高速道路の高架橋です。その先には、ぶつ切れになった橋が川の上に点々と建ち、しかも川と並行するように不自然な方向を向いています。橋は川の両岸を結ぶためにあるものですが、目の前の橋は繋がっておらず、その異様な姿に誰もが驚きを隠せません。これまで羽田空港の近くを通った経験のある人でも、「都内にこんな光景があったとは」と感嘆するばかりです。

東京モノレールが森ケ崎鼻干潟の上を走る様子東京モノレールが森ケ崎鼻干潟の上を走る様子

「羽田可動橋」その驚くべき正体と仕組み

この「ぶつ切れ橋」の正体は、羽田可動橋と呼ばれる橋です。その名の通り可動橋の一種で、特に「旋回橋」に分類されます。旋回橋とは、橋の下を船舶が安全に通れるよう、一時的に車の通行を止め、橋桁を水平に回転させることで水路を確保する特殊な橋です。可動橋には他にも、かつての勝鬨橋のように橋が跳ね上がる跳開橋や、橋桁が上昇する昇開橋などがありますが、羽田可動橋は2つの回転軸を持ち、両岸に近い部分で橋桁が旋回することで、川の中央部を大型船舶が航行できるように設計されています。その独特な仕組みは、都市のインフラと自然環境、そして交通の要衝という複数の要件が複雑に絡み合って生まれた知恵の結晶と言えるでしょう。

慢性的な渋滞解消と航空制限が生んだ選択

羽田可動橋は1990年、首都高速1号羽田線の一部として供用されました。当時、羽田空港への主要アクセスルートは羽田線でしたが、特に羽田トンネル付近では慢性的な渋滞が発生していました。これは、羽田空港から首都高に入る車が、トンネル手前のわずかなスペースで本線に合流する必要があったためです。さらに、合流直後のカーブは危険性も指摘されていました。

この問題を解決するため、羽田トンネルを通らない新たな合流車線の建設が計画されました。具体的には、羽田空港入口から首都高に入る車が、橋で海老取川を渡り、その先で本線に合流させるというものでした。そこで架けられることになったのが、この羽田可動橋です。新たな橋の位置は東京湾の河口に近く、川上には造船所などがあったため、大型船舶の航行を妨げることはできませんでした。通常であれば橋を高く架けることで対応しますが、現場は羽田空港のすぐ近くであり、建築制限によって橋を高くすることも不可能でした。これらの複雑な制約が重なり、結果として、可動橋という稀有な選択肢が選ばれることになったのです。

結論

羽田可動橋は、単なる「ぶつ切れ橋」ではなく、都市の交通渋滞緩和、船舶航行の確保、そして羽田空港周辺の厳しい建築制限という、複数の課題を解決するために考案された先進的で独創的なインフラです。その異様な姿の裏には、日本の都市計画における知恵と技術、そして過去の歴史が息づいています。都心近くにひっそりと存在するこの珍しい橋は、訪れる人々に驚きと発見を与え続けています。

参考文献