【グアテマラ市=大月美佳】米国のルビオ国務長官の初外遊先となった中米・カリブ海の各国が、不法移民対策を最重視するトランプ政権が進める「史上最大の強制送還作戦」に備えた受け入れ態勢の拡充を急いでいる。
5日、ルビオ氏が視察したグアテマラの首都グアテマラ市の移民受け入れ施設前では、北部ペテン県出身の女性(21)が市内に住む友人の迎えを待っていた。この日、米国から送還されたといい、腕と手首に機内でつけられた手錠や鎖の痕が赤く残っていた。
女性によれば、昨年9月、地元の犯罪集団が複数の女性の遺体を投げ捨てているところを偶然、目撃した。「見たな」と脅迫され、勤めていた宝石店を辞め、単身で米国に逃れることにした。半月ほどかけて徒歩やバスで北上し、メキシコ国境の川を渡って米国に入国したところで拘束された。
移民収容施設では「ここはあなたの国ではない」と非難され、亡命申請は却下された。家族がいる故郷は危険で戻れない。女性は「不条理だ」と涙ぐんだ。
グアテマラは米国に向かう移民の通過ルートで、送り出し国でもある。人口の約2割が米国に滞在しているとみられ、当局によると、昨年約7万7000人が民間機で強制送還された。トランプ政権発足後は米軍用機での強制送還も加わり、深夜や早朝にも到着する移民たちの対応に受け入れ施設は追われる。米国の政府援助や人道支援の凍結も施設運営を圧迫する。
米州開発銀行によると、昨年の海外からの送金額は国内総生産(GDP)の19・5%だ。市内の受け入れ施設代表のフランシスコ・ペリサリさん(63)は米国が進める強制送還について、「恐怖の政策だ。戻った移民には仕事もないのに」と憤る。
ベルナルド・アレバロ大統領は5日のルビオ氏との会談後、外国人も含む強制送還を受け入れる航空機の便数を40%増やすと発表した。自国が経済を依存する米国に押し切られた格好だ。
移民の送還先となる中南米各国は、米国との摩擦を避け、一時金の支給や施設の拡充などの対策を相次ぎ打ち出す。トランプ大統領に高関税で脅され、軍用機に乗せた移民の受け入れを強いられたコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領はX(旧ツイッター)で、自国から米国に流れた不法移民に対し、「一刻も早く戻って」と呼びかけ、低金利融資を準備していると強調した。
中南米では、政情不安国から近隣諸国への避難民が多く、治安の悪化が深刻だ。米国への道が閉ざされたことで、周辺国への移民の流入が増え、地域の不安定化につながる可能性も指摘されている。