2024年1月の能登半島地震では、多くの被災者が避難所での生活を余儀なくされました。プライバシーの確保が難しく、劣悪な環境に置かれた人々の姿は、改めて日本の避難所の課題を浮き彫りにしました。この記事では、被災地の現状、専門家の提言、そして未来への希望を探ります。
繰り返される避難所の悲劇:プライバシーも温かい食事もない現実
地震発生から数週間、多くの避難所では段ボールベッドの搬入が遅れ、プライバシーを守るためのパーテーションも不足していました。床に雑魚寝を強いられ、隣の人の寝息が聞こえるような環境で、心身ともに疲弊した被災者たちの声は、過去の震災時と重なります。輪島商工会議所女性会会長の澤田珠代氏は、避難所生活の辛さを訴えます。寝返りを打った拍子に、すぐそばに男性の顔があったというのです。
避難所の床に段ボールを敷いて寝る人々
栄養面での課題も深刻です。認定NPO法人レスキューストックヤード常務理事の浦野愛氏によると、期限切れ間近の菓子パンや、アルファ化米のような栄養バランスに偏った食事を何日も続ける避難所もあったといいます。このような状況は、被災者の健康を脅かすだけでなく、精神的な負担も増大させます。
TKB48:被災者支援の新たなキーワード
避難所・避難生活学会常任理事の榛沢和彦氏は、日本の避難所の現状を「被災者に対するハラスメント」と厳しく指摘します。そして、被災者の人間らしい生活を守るために「TKB48」というキーワードを提唱しています。これは、「トイレ、温かい食事(キッチン)、ベッド」を災害発生から「48時間以内」に提供するという考え方です。
欧米に見る避難所の「公共の福祉」の精神
イタリアなど欧米諸国では、発災後すぐに個室トイレや簡易ベッドが準備され、温かい食事が提供されるのが当たり前です。彼らは避難所を「公共の福祉」の場と捉え、被災者が一日も早く元の生活に戻れるよう支援しています。これは、地域の活性化や国力の回復にもつながるという認識に基づいています。
日本でも、TKB48のような発想の転換が必要です。榛沢氏は、日本の災害法制では基礎自治体が災害対応を所管していることが、迅速な支援を阻む一因だと指摘します。災害は頻繁に起こるものではなく、自治体職員も数年で異動するため、経験や知見が蓄積されにくいのです。
自治体の苦悩:被災者であり支援者でもあるジレンマ
輪島市企画振興部長の山本利治氏は、発災直後の混乱を振り返ります。職員自身も被災者でありながら、避難所の運営を担わなければならないという状況は、大きな負担となります。行政の初動対応が遅れるケースもあり、課題解決に向けた抜本的な改革が求められています。
未来への希望:災害に強い社会を目指して
能登半島地震は、日本の防災体制の脆弱さを改めて露呈しました。しかし、同時に、地域住民やNPO、ボランティアによる献身的な支援活動は、多くの被災者に希望を与えました。行政、地域社会、そして国民一人ひとりが防災意識を高め、連携を強化していくことで、災害に強い社会を築いていくことができるはずです。