日本の高速道路を走っていると、トンネルの表示で「4999m」や「4998m」といった数字を見かけることはありませんか? なぜ5kmピッタリ、あるいはそれ以上の長さにならないのでしょうか? 実はそこには、日本の道路事情と安全対策に深く関わった理由が隠されているのです。この記事では、その謎を紐解き、道路設計の知られざる一面を明らかにします。
道路法とトンネル長さの関係
5kmという数字に隠された秘密、それは「道路法」にあります。 道路法第46条3項では、長さ5000メートル以上のトンネルは「水底トンネルに類するトンネル」と定義され、危険物積載車両の通行が禁止されています。これは、万が一トンネル内で火災が発生した場合、長大トンネルでは避難や救助活動が困難になり、甚大な被害につながる可能性があるためです。 危険物積載車両の通行を規制することで、リスクを最小限に抑えようという狙いがあるのです。
トンネル内を走る車
5km未満への設計:安全対策への工夫
この規制を回避するため、近年のトンネル設計では5000mを超えないよう、様々な工夫が凝らされています。 例えば、新名神高速道路の「箕面トンネル」(4997m) や三遠南信自動車道の「青崩峠トンネル」(4998m) など、全国各地でこの「5kmの壁」を意識した設計が見られます。 これは、物流の円滑化と安全対策の両立を目指す、日本の道路設計における知恵と言えるでしょう。
具体的な事例:全国の「ギリギリ5km未満」トンネル
- 新名神高速道路「箕面トンネル」:4997m
- 三遠南信自動車道「青崩峠トンネル」:4998m
- 中部横断自動車道「樽峠トンネル」:4999m
- 中部縦貫自動車道「荒島第二トンネル」:4988m
- 宮古盛岡横断道路「新区界トンネル」:4998m
これらのトンネルは、いずれも5000mにわずかに満たない長さで設計されています。道路設計における安全対策への配慮が見て取れます。
5km以上の長大トンネルはどうなる?
では、5kmを超える長大トンネルはどうなっているのでしょうか? 中央自動車道の「恵那山トンネル」(8649m) や関越自動車道の「関越トンネル」(1万1055m) など、日本には5kmをはるかに超える長大トンネルも数多く存在します。これらのトンネルでは、危険物積載車両の通行は原則禁止となっています。 そのため、タンクローリーなどは並行する一般国道などを迂回する必要があり、輸送効率の低下が課題となっています。
通行禁止の対象となるトンネル例
- 中央自動車道「恵那山トンネル」:8649m
- 関越自動車道「関越トンネル」:1万1055m
- 東海北陸自動車道「飛騨トンネル」:1万712m
- 阪神高速道路「新神戸トンネル」:6910m
- 首都高速道路「横浜北トンネル」:5950m
- 第二阪奈有料道路「阪奈トンネル」:5578m
規制緩和の動き:エスコート通行方式
こうした状況を改善するため、2016年には国土交通省により規制緩和が行われました。 東日本大震災や熊本地震などの災害時の教訓を踏まえ、タンクローリーなどの危険物積載車両が前後に誘導車を配置する「エスコート通行方式」であれば、5000m以上のトンネルでも通行を許可するようになったのです。 ただし、通行前には道路管理者への連絡が必要となります。 これは、安全性を確保しつつ、物流の円滑化を図るための重要な取り組みと言えるでしょう。
まとめ:安全と効率のバランス
トンネルの長さと道路法の関係性、そして安全対策への工夫について解説しました。 5kmという一見何気ない数字の裏には、日本の道路設計における安全へのこだわりと、物流効率とのバランスを追求する努力が隠されていたのです。 日本の道路インフラストラクチャは、日々進化を続けています。