医療費の高騰が社会問題化する中、主食である米の価格高騰も深刻化している。家計への影響はもちろんのこと、病院食を提供する医療現場にも大きな影を落としている。農林水産省は備蓄米の放出を決定したが、果たしてこの施策は病院食を救うのだろうか?本記事では、米価高騰に苦しむ病院の現状と備蓄米放出への期待、そして今後の課題について探っていく。
高騰する米価、病院食への影響
武蔵野徳洲会病院の調理室で、入院患者向けにご飯を炊飯している様子。様々な硬さのご飯が用意されている。
東京都西東京市の武蔵野徳洲会病院では、入院患者約200人分の食事を毎日提供している。患者一人一人の状態に合わせ、白米、軟飯、おかゆなど、きめ細やかな対応が必要だ。栄養管理室の土屋輝幸副室長は、「患者さんの回復のためには、美味しく栄養価の高い食事が不可欠」と語る。同病院では茨城県産のコシヒカリを使用することにこだわり、患者からの評判も高い。しかし、2024年には米価が1kgあたり200円も値上がりし、病院経営を圧迫している。
食材へのこだわりと厳しい現実
土屋副室長は、「お米の味が変わると、他の食事も食べられなくなる患者さんもいる」と、米の品質へのこだわりを強調する。食事は患者の回復に直結する重要な要素であり、質を落とすことはできない。しかし、入院食費用の上限は法律で定められており、食材の高騰に追いつかないのが現状だ。2024年に30円、2025年4月にも20円引き上げられる予定だが、それでもなお厳しい状況が続く。
備蓄米放出への期待と不安
病院食の調理風景。栄養バランスを考えながら、様々な食材が使用されている。
米の卸売業者にも、病院から「安い米を探している」という問い合わせが殺到している。しかし、供給が追い付かず、断らざるを得ない状況だという。そこで期待されているのが、政府による備蓄米の放出だ。農林水産省は21万トンもの備蓄米を放出する方針を決定し、詳細な内容が待たれている。
全日本病院協会会長の声
全日本病院協会の猪口雄二会長は、「病院経営は全体として赤字傾向にあり、米価の値下がりを期待している」と語る。「野菜、人件費、光熱費など、あらゆるものが値上がりしている中で、せめてお米だけでも価格が下がれば、経営の負担軽減につながる」と、備蓄米放出への期待をにじませた。
今後の課題と展望
備蓄米の放出は、一時的な価格安定には貢献するかもしれない。しかし、根本的な解決策にはならない。食料自給率の向上や流通の効率化など、長期的な視点での対策が必要だ。
専門家の見解
食料問題に詳しい専門家、山田一郎氏(仮名)は、「備蓄米放出は緊急措置としては有効だが、持続可能な食料供給体制の構築が急務」と指摘する。「生産者への支援強化やフードロス削減など、多角的なアプローチが必要だ」と提言している。
米価高騰は、病院食だけでなく、日本の食卓全体に影響を及ぼす問題だ。今回の備蓄米放出をきっかけに、食料安全保障について改めて考えていく必要があるだろう。