【バンコク=森浩】日本や中国、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について、インドが参加見送りを示唆した背景には、経済環境の悪化もさることながら、モディ首相が国内の反発を無視できなかったことがある。
「ガンジーも私に(RCEPへの)参加を許さない」
インドメディアによるとモディ氏は4日、首脳会議が開かれたタイの首都バンコク近郊で、RCEP離脱の可能性についてこう言及した。建国の父、ガンジーが貧困対策に力を注いだことを念頭に置いた発言とみられ、国内優先の姿勢を改めて鮮明にした格好だ。
自由貿易には国内の支持団体から反対が根強い。
RCEPには、与党インド人民党(BJP)の支持母体であるヒンズー至上主義団体、民族義勇団(RSS)などが反対を表明。「安価な中国製品が押し寄せて、国内産業が圧迫される」と主張する。モディ氏によるRCEP離脱の示唆を、小売業者などで作る全インド商人連盟(CAIT)は4日、さっそく歓迎する意向を表明した。
伝統的にインドは保護主義的な色彩が強く、モディ政権は電子商取引サイトの外資規制などを進める。RCEP交渉で、製品輸入が急増した際に緊急的に関税を引き上げる「緊急輸入制限」(セーフガード)導入を主張し続けたのも、国内産業を守る意図がある。
BJPは5月の総選挙で歴史的大勝を収めたが、景気減速が鮮明となり、失業率上昇など国内に不満もくすぶる。RCEPには海外からの投資を呼び込む効果もあり、“次なる経済大国”インドに有利に働く面もあるが、「(国内の)反発を考慮すれば離脱しか選択肢はなかった」(インド人記者)との見方が強い。