外部通報の文書差し止め、法務省が取り消す採決
長野県の長野刑務所(須坂市)で2023年6月に50代の受刑者に虐待があったとされる問題を巡り、この問題を外部に通報する文書の発送を同刑務所に差し止められた別の40代男性受刑者が、信濃毎日新聞の取材に手紙で応じた。同刑務所の差し止めについて法務省は「合理性を欠く」などとして差し止めを取り消す裁決をしている。男性受刑者は手紙で文書作成の経緯などを説明し、同刑務所に差し止めを告げられた際の心境について「法務省の組織に良心はないのかと絶望した」とつづった。
受刑者達も驚く障害あるとみられる人への”虐待”
男性は現在、長野刑務所から移送され、県外の刑務所に収容中。昨年12月に本紙に宛てた手紙で、23年6月から8月にかけて精神・身体障害があるとみられる50代受刑者に対して虐待が繰り返される様子を目撃したとし、「私の周りにいた受刑者達でさえ、『あれはあんましやろ』と苦言を呈していた」と記した。
無理矢理歩かせたり、昼食抜いたり…「意を決して告発」
だが、他の受刑者は刑務所の職員を恐れて何も行動しなかったため「意を決して告発することにしました」と文書作成について説明。刑務官ににらまれ、不利益を受けるのは嫌だったが「体が不自由な人を無理矢理(やり)に速く歩かせたり、昼食を与えないという虐待は社会的に許されるはずがない」と信じ、覚悟を決めたという。耳元で刑務官から罵声を浴びせられながら懸命に体を動かそうとする男性受刑者の姿に「何とかしなきゃ」との思いが募ったとする。
文書差し止め、「犯罪の隠ぺい」と訴えたら…
男性受刑者は文書の差し止めについて刑務所側に「犯罪の隠ぺいですよ」と訴えても、職員は「上が決めたこと」などとして受け流したという。さらに職員からは「不利益が生じるかも」と伝えられ、やんわりと「脅された」と当時の状況を説明した。
「法律を悪用している」
同刑務所の文書発送差し止めは刑事収容施設法に基づく。同法では「刑事施設の規律、秩序を害する結果を生じるおそれがある」場合、文書の発受を差し止められる―と規定している。男性受刑者はこの規定に基づいた差し止めに対し「法律を悪用して不祥事を隠しているだけじゃないか」と怒りを覚えたという。