2025年6月5日、国土交通省は日本郵便に対し、一般貨物自動車運送事業許可のうち約2500台分について取消処分を検討していると通知しました。貨物輸送の安全を根底から揺るがすこの事態に対し、中野洋昌国土交通大臣は「極めて遺憾」と厳しく指摘し、全国的な配送網の混乱回避を強く求めています。本件の概要と原因について、詳細を分析します。
「点呼」不備の実態と原因
日本郵便は2025年4月23日、全国3188局における点呼の実施状況に関する調査結果を国交省に報告しました。その結果、驚くべきことに75%にあたる2391局で、飲酒確認や健康状態のチェックが適切に行われていなかったことが判明しました。
具体的には、点呼簿の帳票偽造や後付け記録が常態化しており、本社や支社が「帳票が整っていれば現場は遵守しているだろう」という性善説に基づいた管理を行い、実態把握を怠っていたことが主な原因と分析されています。さらに、一部マニュアルの規定に誤りがあったことも、不備が固定化される要因となりました。
75%という高い割合での不適切実施は、極めて憂慮すべき数字です。貨物輸送における安全確認義務である点呼制度は、長年の事故経験から確立された物流の最重要基盤です。業界第3位の巨大組織である日本郵便で、この安全の根幹に関わる「不備」が常態化していたという事態は、交通社会全体の安全にとって重大な危機的状況と言えます。
輸送安全の要「点呼」とは
トラック運送事業において、乗務前後および必要に応じた中間点呼は、ドライバーの健康状態、酒気帯びの有無、車両の異常などを確認するための必須手続きです。「貨物自動車運送事業輸送安全規則」第7条で法的に義務付けられており、輸送安全確保の「要」と位置付けられています。
点呼を適切に実施することで、ドライバー自身の安全意識が高まり、交通事故防止に直結します。一方、この義務を怠った場合、警告や車両停止、最悪の場合は事業許可取消といった行政処分が科される可能性があります。
日本郵便のトラック。国土交通省による運送許可取消検討の背景にある安全不備問題を示す。
点呼不備が招いた重大な事態
点呼が形骸化した結果、実際に重大な事故や事案を招いています。例えば、2024年5月に東京都心の高速道路で発生した多重追突死傷事故では、運行前の点呼記録に「健康状態に問題なし」と虚偽記載されていましたが、実際の運転手は38度を超える発熱状態でした。適切な点呼が行われていれば、体調不良が出庫前に把握され、事故が回避できた可能性が非常に高いと考えられます。
さらに、2025年4月には、全国の日本郵便で20件を超える酒気帯び運転が発覚しました。その中には、2024年5月に戸塚郵便局の配達員が白ワインを飲んで酩酊状態で業務配達を行っていた事案や、芝郵便局で管理職が「風邪薬のせい」と飲酒を隠して車両を運転した事案などが含まれます。
日本郵便自身が、2025年4月のわずか一ヶ月間で、飲酒運転が全国で合計20件あったことを発表していることは、まさにめちゃくちゃな状況が現場で繰り広げられていたことを物語っています。
物流業界における安全管理の課題を象徴する画像。
今回の日本郵便の全国調査では、本社・支社ともに「帳票が整っていれば現場遵守は問題ない」と、確認作業を書類チェックに委ね、現場の実態把握が甘かった点が厳しく指摘されています。ある運送会社の元社長は、「適切に運行管理しなくても甚大な事故は起きないと思っていた」と述べたとされており、これは安全管理に対する過信や軽視が、いかに深刻な結果を招くかを示唆しています。安全不作為が常態化していた組織の実態が浮き彫りになっています。
結論
日本郵便に対する国土交通省の運送許可取消検討通知は、単なる手続き上の問題ではなく、輸送の安全を軽視し、法定義務である点呼制度を形骸化させていた組織的な問題を浮き彫りにしました。広範な点呼不備と相次ぐ飲酒運転事案は、利用者を含む交通社会全体の安全に対する脅威であり、このままでは全国的な物流ネットワークに影響を及ぼす可能性も否定できません。日本郵便には、抜本的な安全管理体制の見直しと、現場任せにしない実効性のある再発防止策が強く求められます。