七五三を心待ちにしていた母と娘。しかし約束の時間に姿はなく、心配した祖母が自宅を訪れた。そこで目にしたのは、変わり果てた二人の姿だった――。これは平成9年、北海道伊達市で発生した凄惨な母娘殺害事件の記録である。「近年まれにみる凶悪」と検察が称した衝撃の犯人は一体誰だったのか。事件の全貌を、事件備忘録@中の人による新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』より一部抜粋しお届けする。
伊達市母子殺害事件:現場と犠牲者
それは凄惨な光景だった。事件現場は北海道伊達市の市営新末永団地の一室。ここには当時35歳の佐々木瑞穂さん(仮名)と、その幼い娘である萌香ちゃん(仮名、6歳)が肩を寄せ合い暮らしていた。平成9年11月15日、七五三の記念撮影をする予定で親族と会う約束をしていた二人だが、約束の時間になっても待ち合わせ場所に現れなかった。そこで、心配した瑞穂さんの実母が自宅を訪問。そこで変わり果てた姿を発見したのである。
二階建てのその家に入った実母が見たのは、まず階段付近で血を流し絶命している孫娘の萌香ちゃんだった。そして二階の六畳間では、同様に頭部から血を流して娘の瑞穂さんも死亡していた。状況から、二人は何者かによって殺害されたとみられた。
北海道伊達市で起きた母娘殺害事件のイメージ画像
捜査の進展と被害者たちの素顔
捜査本部は現場の状況から、殺害時間を前日14日の夜と断定した。二人の死因は、いずれも頭部を鈍器で複数回殴られた後、首を絞められたことによるものだった。外部から無理やり押し入った形跡や室内が荒らされた形跡もなく、ふたりの着衣に乱れもなかったことから、捜査は顔見知りの犯行である可能性を強く視野に入れて進められた。
被害者の瑞穂さんは当時、伊達市の臨時職員として水道局に勤務しており、離婚歴があったが職場での評価は高く、いつもニコニコと笑顔の美しい女性だったという。娘の萌香ちゃんも挨拶がしっかりできる子供で、事件の知らせを受けた萌香ちゃんが通っていた保育園の職員らは言葉を失った。
一方、地元紙である北海道新聞の記者たちも、夜討ち朝駆けで捜査員らから何か情報を聞き出せないかと奮闘していた。七五三という門出の日に、そのお祝いをする予定の母娘が殺害されるという何ともむごたらしい事件に、記者たちも辛い取材を強いられたのである。
浮かび上がった犯人の影
そうした中、瑞穂さん宅には頻繁に男性が出入りしていたという情報が浮上した。瑞穂さんは臨時職員になる前、伊達市内の建具販売会社で勤務しており、その際、会社の取引先の男性と親密になったという。記者たちは当初、この男性が事件に何らかの関係があるのではないかと思いつつ慎重に取材を続けたというが、結果として、ある意味この男性が事件に関与していたのである。
七五三を祝うはずだった穏やかな一日が、突如として血塗られた悲劇へと暗転した伊達市の母娘殺害事件。幼い娘と母親を襲った凶行は、顔見知りの犯行という可能性が高いことから、その動機や背景に注目が集まった。「近年まれにみる凶悪」と検察が評したこの衝撃的な事件の全貌、そして犯人の正体は次稿で詳述する。
出典:事件備忘録@中の人・高木瑞穂『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より抜粋、Webオリジナル(外部転載)