【大人の教養】イギリスが世界支配に利用した「意外な植物」とは?


● イギリスが世界支配に利用した植物とは?

 本日は、近代史の興味・関心が深まる話題をご紹介します。

 さて、イギリスといえばガーデニングの国、というイメージはないでしょうか?

 イギリスは西岸海洋性気候に属し、高緯度(ロンドンは北海道の北・樺太島中央とほぼ同緯度)にもかかわらず、偏西風と暖流の影響で温暖(年間を通じて気温が0度をまず下回らない)であるため、ガーデニングに適した土地柄なのです。これは王室も例外ではなく、イギリス王室にはキューガーデン(キュー植物園)という宮殿併設の庭園があります。

 今日、キューガーデンは国立の植物園として知られますが、かつては植物の研究所として、イギリスの植民地支配に重要な影響を与えたのです。その一例が、天然ゴムでした。天然ゴムとはゴムノキの樹液(ラテックス)を凝固させたもので、19世紀にはヨーロッパの工業製品(銃弾など)には欠かせないものとなりつつありました。しかし、ゴムノキ(パラゴムノキ)は当時はアマゾン川流域のみに分布しており、このため天然ゴム生産はブラジルがほぼ独占状態にありました。

 そこで、イギリスはブラジルよりゴムの苗木を密輸し、その植生が研究されたのが、キューガーデンだったのです。分析の結果、高温多湿を好むゴムノキは、19世紀末にイギリスが植民地としたマレー半島が適しているという結論に達し、このためマレー半島では大規模なゴムのプランテーションが展開されたのです(天然ゴム製品は今日のマレーシアでも輸出上位に位置します)。

 一方、ゴムノキの栽培が実現する以前、イギリスは天然ゴムの代替品を探し求めました。19世紀半ば、イギリスはやはりマレー半島である植物に注目します。それが、ガタパーチャです。ガタパーチャの樹液は凝固すると絶縁体となり、また冷却されると形状を維持するという性質がありました。

 イギリス東インド会社は、このガタパーチャをマレー半島の先端シンガポールで大量に買い付け、このガタパーチャの性質に注目した一人に、マイケル・ファラデー(1791〜1867)がいました。電磁誘導やモーターの原理を発見した人物です。ファラデーらは、ガタパーチャは当時のイギリスが開発を目論んでいた「あるもの」の素材に適しているとの見解を示します。

 それが、海底ケーブルです。ファラデーはフォン・ジーメンス(シーメンスの創業者)とともに英米の協力のもと実験を繰り返し、ついに1851年にブレット兄弟の手で、世界初の海底ケーブルがドーヴァー海峡に敷設されました。これ以降、帝国主義と呼ばれた風潮を背景に、イギリスは世界中に植民地を拡大しますが、その過程で世界を1周する海底ケーブル網も整備し、これは「オール・レッド・ライン」と呼ばれます。

 (本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者の書き下ろし原稿です)

伊藤敏



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