特別でなくていい。普通の幸せを手にしてほしい——。
親ならば誰しも我が子に願うことではないだろうか。
【マンガ】「新小学4年生から中学受験」…それが《親子の地獄》の始まりだった
しろやぎ秋吾さんの話題作『すべては子どものためだと思ってた』(KADOKAWA)に登場する専業主婦の土井くるみも、そんなささやかな願いを抱きながら子育てに向き合う親のひとりだ。
ある日、地元の公立中学の評判が悪いことを知った彼女は、小学4年生に上がったタイミングで息子・こうたに中学受験をさせることを決意する。
しかし、この選択が“親子の地獄”の始まりだった。
「我が子の幸せのため」というくるみの親心は、次第に狂気へと変わり、こうたを追い詰めていく。
本記事では、親子で臨んだ中学受験の結果とその後の生活を紹介する。
前回記事〈「頑張らなかったあなたが悪いんだよ?」…中学受験で子どもを追い込む毒親が願った「自分勝手な幸せ」〉より続く。
親子の中学受験の結果
2月、ついに第一志望の私立中学の受験日がやってきた。
「落ちついていつも通りやれば、こうちゃんなら大丈夫だから。がんばってね!」
そう言って我が子を送り出したくるみは、合格祈願のお守りを強く握りしめた。
実は、こうたは失敗が許されない状況だった。塾の先生からは「滑り止めで複数校受けるのをおすすめします」とアドバイスを受けていたが、くるみがその提案を受け入れなかったのだ。
今の息子なら必ず受かる——。
すでにくるみはこうたが合格する未来しか見えていなかった。
そして迎えた合格発表当日。こうたの受験番号は「205」だ。くるみは急いで掲示板に駆け寄った。
くるみは、大きく目を見開いた。
こうたは、不合格だった。
「やっとお母さんも安心できる」
中学受験に失敗したこうたは、地元の公立中学校に進学した。「質の悪い生徒」「質の悪い教師」「質の悪い校舎」「質の悪いカリキュラム」……。くるみは、息子にとって意味のないこの学校が大嫌いだった。
ただ、こうたの受験失敗後、くるみは再び希望を見出し始めていた。落ちた志望校に高校入試の募集枠があることを知ったのだ。
——今回は運が悪かっただけだ。こうちゃんの実力なら受かっていたはずなんだ。3年後この学校を目指す。次は必ず受かる。私が正しく導いてあげれば大丈夫。
そして、こうたは再び受験勉強を始めていた。ある晩、勉強するこうたに向かってくるみが優しく語りかけた。
「小さいころのこうちゃんは頼りなくてさ。すぐ泣いちゃうし。お母さんに心配かけてばかりだったのに、それが3年後には第一志望の高校に受かって高校生だよ?すごいよね」
くるみは、とびきりの笑顔を見せる。
「その次はそのままいい大学に行って、いい仕事に就いて、こうちゃんは幸せな人生を送れるんだ。そしたらやっとお母さんも安心できる」
こうたの顔は青ざめていた——。
衝撃のラストが話題の本作。続きは実際に作品を手にとって確かめていただきたい。
作者のしろやぎ秋吾さんがくるみのキャラクターを解説する。
「母親のくるみは中学受験をサポートするうちに『子どもの幸せは志望校の合格以外にあり得ない』と考えるようになっていきます。表面的には豹変しているように描いていますが、心のなかではずっと子どものためを思って行動し続けている。
どのような親でもくるみのような毒親になってしまう可能性はあるんじゃないでしょうか。友達とトラブルなくうまくやってほしい、子どもに合った習い事をさせてやりたい、周りに遅れをとらせたくない……。我が家の悩みもくるみとほとんど変わりません。でも、この親心のバランスが崩れるきっかけは人それぞれ。悪意がないからこそ難しい問題です」
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【はじめから読む】「私がこの子を幸せにしてみせる」…子どもの中学受験で《悪意なき毒親》が誕生してしまう「切実なワケ」
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