ブラック郵便局:日本の郵便システムの闇を暴く

郵便局。誰もが一度は利用したことがある、地域に根差した身近な存在。しかし、その裏には過酷なノルマ、不正営業、パワハラなど、想像を絶するブラックな実態が隠されている。西日本新聞の宮崎拓朗記者によるノンフィクション『ブラック郵便局』(新潮社)は、6年間にわたる綿密な取材に基づき、巨大組織の闇を暴き出した衝撃作だ。本記事では、その内容に触れながら、郵政民営化の功罪、そして郵便局が抱える構造的問題について深く掘り下げていく。

過酷なノルマと不正営業の実態

はがきから保険まで:ノルマに追い詰められる局員たち

宮崎記者は当初、はがきの過剰なノルマを強いられ、自腹で購入したはがきを金券ショップで換金する局員の実態を報道した。これがきっかけとなり、全国から内部告発が殺到。不正な保険営業、パワハラ、内部通報のもみ消しなど、信じがたい現実が次々と明らかになった。

alt="西日本新聞の宮崎拓朗記者。2018年から日本郵政グループを取材し、過剰なノルマや不正営業の実態を暴いてきた。"alt="西日本新聞の宮崎拓朗記者。2018年から日本郵政グループを取材し、過剰なノルマや不正営業の実態を暴いてきた。"

かんぽ生命保険の営業においても、過酷なノルマが課せられ、不正や詐欺まがいの営業が横行していたという。被害者の多くは高齢女性で、中には月20万円もの保険料を支払わされていたケースも。ノルマ達成に追われる局員たちは、上司からのパワハラに苦しみ、心身を壊していく。

数字至上主義の弊害:「相手はカネだと思え」

現場では「相手はカネだと思え。下手な同情はいらない」という風潮が蔓延していたという証言もある。本来は地域貢献を志して入社した局員たちも、過酷なノルマとプレッシャーの中で、倫理観を失い、不正に手を染めてしまう。人間は追い詰められると、弱い部分が出てしまうということを改めて考えさせられる。

2万4000局維持の矛盾:民営化が生んだ構造的問題

赤字経営と保険・銀行業務への依存

民営化から17年、郵便局の数は約2万4000局とほぼ横ばい。しかし、郵便物の減少により多くの郵便局が赤字経営に陥っている。郵便局の窓口業務維持費用は約1兆円で、その約7割は保険と銀行業務の収益で賄われている。全国の郵便局網を維持するために、無理なノルマを課し、収益を上げざるを得ないという構造的問題が存在する。

選挙活動に熱心な「局長会」の闇

「全国郵便局長会(局長会)」は、政治活動に熱心に取り組み、人事権を事実上掌握していると言われる。その影響力の大きさゆえに、様々な問題が指摘されている。

結論:持続可能な郵便局のあり方とは

『ブラック郵便局』は、郵便局という身近な存在の裏に潜む闇を白日の下にさらした。過酷なノルマ、不正営業、パワハラ、そして政治との癒着。これらの問題は、郵便局だけの問題ではなく、日本の社会全体の縮図とも言えるだろう。持続可能な郵便局のあり方、そして郵政民営化の真の意味を改めて問い直す必要がある。