現代社会において、経営者、従業員、高齢者、若者…多くの人が「苦しい」と感じています。この普遍的な苦しみの原因はどこにあるのでしょうか?ベストセラー『世界は経営でできている』の著者、岩尾俊兵氏の最新作『経営教育』(角川新書)から、その謎を解き明かしてみましょう。
経営学が照らし出す、現代社会の病理
経営学は、インタビュー調査やケーススタディを通じて、当事者の視点を取り入れることで、客観的な分析を行います。今回ご紹介するのは、犯罪の前科を持つ人の更生支援を行う飲食チェーン企業へのインタビュー調査です。(企業名、調査日時は非公開)
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この企業は、元受刑者にたこ焼きやお好み焼きなどの調理技術を教え、繁華街の店舗で働く機会を提供しています。中には店長として活躍する人もいるそうです。元詐欺グループのリーダーだったというある店長は、「結局、どこの世界も白い粉は儲かるなあ」と笑っていたのが印象的でした。
犯罪に手を染めるZ世代:その背景にあるもの
この店長の周辺や刑務所内には、強盗で服役している人もいます。彼らから聞いた話によると、現代の詐欺や強盗事件の下っ端として使い捨てにされるZ世代の若者たちは、意外にも「いい子たち」が多いそうです。学校で「手を繋いでゴール」といった教育を受けて育った彼らが、なぜ凶悪犯罪に手を染めてしまうのでしょうか?
多くのZ世代の若者は、殴り合いの喧嘩もしたことがないといいます。だからこそ、加減が分からず、高齢者をハンマーで殴り殺してしまうこともあるそうです。
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悪の道へといざなう「再教育」
犯罪を拒否する「いい子たち」を犯罪に引き込むため、詐欺や強盗グループのリーダーは、彼らに「再教育」を施します。
まず、YouTubeなどで「年金暮らしの高齢者がいるから日本の若者は貧乏なのだ」「働いていない高齢者がみんないなくなれば若者は救われる」といった動画を見せます。これらの動画には、実業家や海外の有名大学の研究者などが登場します。
漠然とした不安を抱え、素直なZ世代の若者たちは、こうした動画を見せられ、「ほら、有名な人たちもみんな言ってる。高齢者から奪うのは正義なんだ」と説得されると、犯罪へのハードルが下がるというのです。
「みんな苦しい」現代社会:世代間分断の影
「高齢者の多くはいまでは働いている」「現代は誰にとっても苦しい時代だ」という事実を忘れてしまうと、「世代間の分断が進んで犯罪が多発する」という危険な兆候が現れます。
犯罪を犯す人たちも、思考が間違っているだけで、本質的には悪人ではないのかもしれません。影響力のある人物の発言が、意図せずともZ世代の若者に悪影響を与えている可能性があります。発言者個人ではなく、社会全体に広がった思考に問題があると言えるでしょう。
著名な社会心理学者の田中博士(仮名)は、「現代社会の情報過多は、若者の判断力を低下させる一因となっている」と指摘しています。真偽不明の情報に惑わされず、批判的な思考力を養うことが重要です。
経営学から見える解決の糸口
この問題の解決策は、政策論だけでなく、経営学的な視点からも見出すことができます。本書では、その具体的な方法について詳しく解説しています。
現代社会の苦しみを理解し、解決策を探るためには、多角的な視点が不可欠です。経営学は、そのための新たな視点を提供してくれるでしょう。