アメリカ車といえばAT(オートマチックトランスミッション)が主流。今では日本車でもATやCVT、EVの普及によりMT(マニュアルトランスミッション)車は少数派となり、アメリカ車のAT化も当然のことのように感じられます。しかし、かつて日本ではMT車が主流で、AT車は「トルコン車」と呼ばれ、高価で特別な存在でした。当時の日本では「アメリカは技術が進んでいるからATが当たり前」という認識さえありました。一体なぜアメリカ車はAT化が進んだのでしょうか?この記事では、その歴史的背景やアメリカ独自の事情を紐解き、アメリカ車におけるATの進化を探ります。
広大な国土とフリーウェイ文化が生んだAT大国
1980年代半ば、私がアメリカで生活を始めた頃、既に多くのアメリカ人にとってATは特別なものではなく、2ペダル車が当たり前の時代でした。「AT」という概念すら希薄で、車といえばATという認識だったのです。この背景には、アメリカの道路環境が大きく影響しています。広大な国土を走るフリーウェイでは、一定速度での高速走行が長時間続くため、MTによる燃費向上メリットはあまり重要視されませんでした。また、ガソリン価格も比較的安価だったことも、AT化を後押しした要因と言えるでしょう。
スティックシフト:アメリカにおけるMT車の特別な存在
アメリカではMT車は「スティックシフト」と呼ばれ、特殊な車という認識があります。教習所制度が日本ほど普及しておらず、免許取得の実技試験には自家用車や友人の車を使用することが一般的ですが、これらの車はほとんどがAT車です。そのため、MT車の運転経験を持つ人は限られています。自動車評論家の山田太郎氏(仮名)は、「アメリカではMT車はスポーツカーや一部のトラックなど、特定の車種に限定されているため、一般的なドライバーにとっては馴染みの薄い存在です」と指摘しています。
大型化と進化:アメリカ車とATの歩み
T型フォードの登場以降、大衆車市場が拡大するにつれ、コストと利便性を両立する変速機構としてATが開発されました。第二次世界大戦後、1950~60年代にかけてアメリカ車のボディサイズとエンジンが大型化するにつれ、設計上、そしてユーザーニーズとしてもATが主流となり、MTはモータースポーツ由来のスポーツモデル向けという流れが確立されていきました。
エンジン特性と運転スタイル:ATとの相性
altアメリカ車の多くは、低回転域から大きなトルクを発生する大排気量エンジンを搭載しています。このエンジン特性は、滑らかな変速が可能なATとの相性が良く、快適なドライビングを実現します。また、信号が少ない直線道路が多いアメリカの交通事情も、ATのメリットを最大限に活かせる環境と言えるでしょう。
まとめ:アメリカ車とATの密接な関係
この記事では、アメリカ車におけるATの普及について、歴史的背景やアメリカ独自の事情を交えて解説しました。広大な国土、フリーウェイ文化、そして大型化した車体とエンジン。これらの要素が複雑に絡み合い、アメリカ車におけるATの地位を不動のものにしたと言えるでしょう。MT車が「スティックシフト」という特別な存在として位置づけられるアメリカ。その車文化は、日本のそれとは大きく異なり、独自の進化を遂げてきたのです。