北朝鮮の黄海南道谷山郡。これまでミサイル基地や空軍基地として知られていたこの地域が、実は韓国侵攻に向けた特殊部隊の訓練場としての役割も担っていることが明らかになりました。ウクライナで捕虜となった北朝鮮兵士の証言や、様々な情報筋からの分析を元に、谷山郡の軍事的重要性と、北朝鮮の恐るべき戦略を紐解いていきます。
ソウルを模した訓練施設の存在
ウクライナで捕虜となった北朝鮮兵士の証言によると、谷山郡には「武力部訓練場」と呼ばれる施設が存在し、ソウル市鍾路区をはじめ、釜山、大邱、全州、済州島など、韓国の主要都市の地形を模した訓練施設が多数設けられているとのことです。この証言は、北朝鮮が韓国侵攻を想定した極めて具体的な訓練を行っていることを示唆しています。
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谷山郡:北朝鮮軍事戦略の要衝
谷山郡は、広大な溶岩地帯という地理的特性から、北朝鮮の軍事施設が密集する要衝となっています。最南端の空軍基地である「谷山飛行場」には、主力戦闘機MiG-17やMiG-21など約50機が配備されており、ソウルまでわずか5分で到達可能という脅威的な位置にあります。
また、米シンクタンクCSISの報告によれば、「カルゴル基地」には中・短距離弾道ミサイルと移動式発射台(TEL)が配備されており、北朝鮮のミサイル戦略においても重要な役割を担っています。さらに、北朝鮮が開発した自走砲「谷山砲」の発祥の地でもあり、近年ロシアに供与された武器にも含まれていたことが確認されています。
ソウル侵攻の「突撃ルート」としての役割
韓国のシンクタンク統一研究院のホン・ミン研究委員は、谷山郡を「戦時に韓国中心部へ突入する『突撃ルート』の一つ」と指摘しています。人民軍第2軍団が駐留するこの地域は、有事の際に西部・東部への支援も可能であり、軍事的に極めて重要な位置にあります。
金正恩総書記は昨年11月、第2軍団司令部を視察し、その際の写真を公開しました。会議室の机には「ソウル」の文字がはっきりと書かれた地図が置かれており、韓国侵攻計画を示唆するものとみられています。
「3日短期速戦戦略」と谷山郡の重要性
金正恩総書記は、特殊部隊を先鋒に韓国へ先制攻撃を仕掛け、短期間で制圧する「3日短期速戦戦略」を構想しているとされています。この戦略において、谷山郡の特殊部隊訓練施設は重要な役割を担うと考えられています。2013年に北朝鮮の対南宣伝サイトが公開した映像では、前線の砲兵部隊による奇襲攻撃、続いて第1・2・5軍団の南下、そして韓国主要地点への短距離ミサイル攻撃という具体的な計画が示されていました。
谷山郡は、北朝鮮の韓国侵攻戦略における重要な拠点であり、その軍事力の増強は、東アジアの安全保障にとって大きな脅威となっています。今後の動向に注視していく必要があります。