【香港=藤本欣也】香港当局が反政府活動を続ける民主派や若者らへの圧力を一気に強めてきた。政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官が今月4日、中国の習近平国家主席から、「暴力の制止と秩序回復が香港の最重要任務だ」として、一層厳しい対応を命じられたためだ。林鄭氏は12月中に習氏と再び会談する可能性が高く、それまでに一定の成果を挙げる必要に迫られている。
11日正午すぎ、香港のビジネス街・中環(セントラル)では、若者が警官に撃たれて重体に陥ったとのニュースを聞いた会社員らが通りに出て警官隊と対峙。「殺人者ども!」「警察は解散してしまえ!」などの罵声を浴びせていた。
香港警察は11日までに、民主派の立法会(議会に相当)議員7人を訴追したが、その案件は半年も前に立法会の委員会で起きた議事妨害。「政治的な思惑があるのは明らか」(民主派の陳淑荘・公民党副主席)と非難されている。
11日朝の実弾発砲も、武器を持たない若者たちが至近距離から警官に撃たれている。警察当局は、10月に10代の少年2人が銃で撃たれて重傷を負った際には、「警官は生命の危険を感じていた」と発砲を正当化したが、今回はこれに当たらない。実弾発砲の基準が大幅に緩和されているのは明らかだといえる。
背景にあるのは、早期の混乱収束を望む中国当局の意向だ。先日、習氏は林鄭氏に「高い信頼を置いている」と伝える一方で、「法に基づき暴力活動を処罰すること」を求めた。韓正副首相からは「習主席の負託を胸に刻み、再出発してほしい」と念を押された。
林鄭氏にはあまり時間が残されていない。林鄭氏は毎年12月に北京に赴いて、習氏ら最高指導部に対し施政報告をしている。また、習氏は今年12月20日のマカオ返還20周年記念式典に出席するためマカオを訪問するとみられており、その際に林鄭氏と再会談する可能性も取り沙汰されている。
外交筋は「林鄭氏は12月中に一定の成果を挙げなければならず、かなりのプレッシャーを受けているようだ」と話している。