人材不足なのに倒産増加?人材業界の意外な苦境とは

人材不足が叫ばれる中、転職市場は活況を呈しています。しかし、皮肉なことに、人材紹介や派遣などの人材サービス業界では倒産が増加しているという現状があります。今回は、この意外な状況について詳しく解説します。

人材業界の倒産増加の現状

2024年度(4月~2月)の人材関連サービス業の倒産件数は92件と、前年同期比で10.8%増加しました。これは過去10年間で最多だった2023年度の91件を既に上回り、100件に迫る勢いです。特に、転職エージェントや人材紹介会社など、求職者と企業を繋ぐ「職業紹介業」の倒産は21件と過去最多を記録しています。

2024年度人材関連サービス業倒産状況2024年度人材関連サービス業倒産状況

コロナ禍では経済活動の停滞により、解雇や雇い止めが増加し、人材市場は冷え込んでいました。しかし、コロナ禍が落ち着きを見せ始めると状況は一変。活発な求人市場の中で、人材サービス業界自身も人材不足に陥るという皮肉な事態が発生し、倒産件数は2021年度を底に増加傾向にあります。

倒産増加の背景にある要因

人材業界の倒産増加の背景には、深刻な人材不足と過当競争が挙げられます。人材業界は競合が多く、クライアントのニーズに合致する人材の確保が難しくなっているのです。大手企業は潤沢な資金を元に積極的に広告展開を行い人材を確保していますが、中小企業は広告を出しても思うように人材が集まらず、広告費が資金繰りを圧迫するケースも少なくありません。

人材サービス会社自身も人材不足に悩まされています。企業が求める人材を提供できなければ顧客開拓が進まず、事業の継続が難しくなるのです。派遣業界では社会保険の適用拡大や有給休暇の消化も負担となっています。

さらに、近年では派遣会社を通さず、直接雇用で人材を確保する動きや、スキマバイトの普及など、採用方法の多様化も進んでいます。これらの変化も、従来型の人材派遣業のシェアを奪っている要因と言えるでしょう。人材紹介会社の経営コンサルタントである山田一郎氏は、「採用市場は大きな転換期を迎えており、人材サービス業界も時代に合わせた変化が求められている」と指摘しています。

倒産企業の特徴

今回の調査では、倒産企業の7割が「販売不振」を原因として挙げています。また、倒産形態の9割以上が「破産」であり、再建の難しさが浮き彫りになっています。負債額は1,000万円以上5,000万円未満の企業が約6割を占めています。従業員規模別では5人未満の企業が最も多く、規模を問わず倒産が発生していることが分かります。地域別では関東、近畿、中部地方への集中が見られます。

今後の人材業界の展望

空前の売り手市場が、皮肉にも人材サービス業界の淘汰を促している現状。今後、人材サービス業界はどのように変化していくのでしょうか。人材業界アナリストの佐藤花子氏は、「AIを活用したマッチングシステムの導入や、専門性の高いニッチな分野への特化など、新たな戦略が生き残りの鍵となるだろう」と予測しています。

人材不足という社会課題を解決する役割を担う人材サービス業界。その業界自体が苦境に立たされているという現状は、私たちに多くの課題を突きつけています。