東京電力福島第1原発事故の風評被害をあおるような韓国政府の政治宣伝に対処するため、外務省が他省庁との連携を深めている。韓国側がさまざまな国際会議で原発の「汚染水」問題を提起しているからだ。韓国の主張は、来年の五輪開催を控えた日本のイメージをおとしめる狙いがあるとみられ、虚偽やミスリードを誘う情報も目立つ。誤解の拡散を防ぐ効果的反論が政府の課題となっている。
「福島原発汚染水問題を国際公論化」。韓国海洋水産省は10月10日、このような報道発表を出した。前日にロンドンで開かれた海洋投棄禁止に関するロンドン条約の締約国会議についての発表で、韓国が福島第1原発の「汚染水」の海洋放出は「全地球的な環境環境に影響する国際問題になる」と主張したとの内容だ。
韓国は同11日にも、フィリピンでの世界保健機関(WHO)の会合で「汚染水」問題を提起した。いずれの会議も「原子力」と直接関係なく、主管は国土交通省、厚生労働省だった。しかし、韓国側の主張を想定して外務省が情報を共有していたため、連携して即座に反論した。
韓国側の主張は事実を踏まえていない。福島第1原発のタンクで保管しているのは、原子炉内で溶けた燃料に触れた放射能汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した「処理水」だ。放射性物質トリチウムを含む処理水は、政府の小委員会で処理方法を検討中で、結論は出ていない。海洋放出の場合も未処理の汚染水を流すわけではない。
外務省や経済産業省は9月、東京の各国大使館向けの説明会で、韓国の3人を含む出席者に資料を配布し事情を説明した。しかし韓国は国際会議で海洋放出を前提として「福島汚染水」との言葉を多用している。外務省幹部は「原子炉の周りの水をそのまま放出するかのような印象を植え付けようとしている」と憤る。
韓国は今月下旬に中国で開催予定の日中韓原子力安全上級規制者会合でも「汚染水の海洋放出問題」を提起するとされ、日本側の一層の取り組みが求められる。(原川貴郎)