地下鉄サリン事件から30年。未曾有のテロ事件の真相解明に、科学捜査官たちの血のにじむような努力があったことはあまり知られていません。今回は、警視庁科学捜査官だった服藤恵三氏の著書『警視庁科学捜査官』(文春文庫)を元に、サリン製造の全容解明に挑んだ知られざるドラマに迫ります。特に、化学兵器サリンを生成した土谷正実の沈黙を破るまでの緊迫した攻防に焦点を当て、事件の闇に迫ります。
沈黙を破る、執念の攻防
オウム真理教事件の捜査は、まさに暗中模索の状態でした。そこで、事件解明の鍵を握る人物、土谷正実への取り調べが開始されました。しかし、土谷は頑なに沈黙を守り、捜査は難航を極めました。
服藤氏は、土谷の心を揺さぶるために、ある奇策を思いつきます。それは、白紙にサリン生成の工程や反応式を書き出すことでした。土谷の反応をじっと観察しながら、服藤氏は黙々と書き続けました。
土谷正実の反応式
サリン生成の核心、ウパヴァーナの反応式
やがて、土谷の視線が、服藤氏が書き出したある反応式に釘付けになります。それは、「ウパヴァーナ」と記されたノートに記載されていた、四塩化ケイ素を用いた特殊な反応式でした。ウパヴァーナとは、サリンプラント建設責任者のホーリーネーム。土谷が直接教示した反応式でした。
この反応式は、文献には見当たらない独自の合成法でした。服藤氏は、クシティガルバ棟で発見された四塩化ケイ素の薬品瓶から、この反応式が使われた可能性が高いと確信していました。
土谷は、この反応式を見て明らかに動揺し始めます。手足は震え、落ち着きを失っていきます。押収資料を徹底的に分析しなければ知り得ない情報に、土谷の沈黙の壁はついに崩れ始めたのです。
科学捜査の勝利、そして事件解明へ
服藤氏の執念の捜査により、土谷はついに沈黙を破り、サリン製造の全容を語り始めました。それは、事件解明への大きな一歩であり、科学捜査の勝利でした。
食品化学の専門家、山田教授の分析
この土谷の証言について、食品化学の専門家である山田教授(仮名)は、「四塩化ケイ素を用いたサリン合成法は非常に特殊であり、高度な化学知識が必要とされる。土谷氏が自力でこの方法を編み出したことは、彼の化学の知識と技術の高さを示していると言えるだろう」と分析しています。
土谷の供述は、オウム真理教によるサリン製造の実態を解明する上で重要な証拠となり、事件の真相究明に大きく貢献しました。
私たちにできること
地下鉄サリン事件は、私たちの社会に大きな衝撃を与えました。事件から30年が経ちますが、私たちは決してこの事件を風化させてはなりません。テロの脅威を改めて認識し、平和な社会を守るために、一人ひとりができることを考えていく必要があるでしょう。
この事件の真相解明に尽力した科学捜査官たちの努力に敬意を表するとともに、二度とこのような悲劇が繰り返されないことを願ってやみません。