ウクライナ紛争後の世界秩序と韓国外交の針路:自強と戦略的柔軟性の追求

激動する国際情勢の中、ロシア・ウクライナ紛争は単なる地域紛争を超え、戦後の国際秩序を揺るがす地殻変動を引き起こしています。米国主導の世界秩序への疑問、中堅国の外交戦略の模索など、歴史的な転換期を迎えています。この新たな世界秩序の中で、韓国はどのような外交戦略を展開すべきなのでしょうか。本記事では、自強と友邦との連帯、戦略的自律性と現実主義的柔軟性の調和という視点から、韓国外交の進むべき道を探ります。

トランプ氏の平和論:紛争管理と負担縮小

トランプ前大統領の平和論は、紛争の根本解決よりも「停戦」による政治的妥協を重視しています。ウクライナ紛争をバイデン政権の失敗と位置づけ、ロシアやウクライナとの取引を通じて紛争管理と負担縮小を図ろうとしています。これは、戦争の責任や正義よりも、現実的な利益を優先する戦略と言えます。

ウクライナの国旗ウクライナの国旗

このアプローチは、米国内の厭戦気分や実利重視の外交を求める世論にも合致しています。しかし、ウクライナの主権や同盟国の信頼を損なう可能性も孕んでいます。「停戦」は実現可能でも、その平和が誰の声を無視するのかによって、国際秩序の安定性は大きく左右されるでしょう。

多極化時代におけるロシアとの関係

トランプ氏は多極体制を受け入れ、ロシアと手を組もうとしているのでしょうか。NATOへの懐疑的な姿勢、ウクライナへの不介入主義、プーチン大統領との取引的なアプローチは、そのように見えるかもしれません。しかし、彼の外交はロシアとの戦略的連帯というより、中国牽制のための戦術的活用に近いと考えられます。プーチン大統領は取引可能な相手とみなす一方、習近平国家主席に対しては強硬路線を維持しています。

ロシアとウクライナの国旗ロシアとウクライナの国旗

トランプ氏は秩序を設計する戦略家というより、力の配分を有利に調整する交渉家です。国際機関や同盟を交渉手段とみなし、規範よりも戦略的柔軟性を重視します。多極化は受け入れざるを得ない現実であり、制度化するビジョンではありません。彼が望むのは、予測不可能性と競争の中で米国が主導権を握り続ける不安定ながらも有利な「戦術的流動秩序」です。

ウクライナ支援:短期的な費用 vs 長期的な利益

ウクライナ支援への懐疑論は、短期的な費用に焦点を当てた視点です。ウクライナ復興はG7、EU、IMFなどが参加する国際的な公共財であり、韓国は1兆ウォン規模の支援とMOU締結で主導的な役割を果たしています。重要なのは、原発・デジタル・建設・防衛産業など、経済・技術協力を基盤としたパートナーシップ構築です。

ウクライナ復興支援会議ウクライナ復興支援会議

一方、ロシア占領地への性急な接近は国際法違反のリスクがあり、信頼を失う可能性があります。外交は収支決算ではなく、国際的な責任と信頼を長期的に築く戦略であるべきです。日本のクリミア半島への過去の対応は、貴重な教訓となるでしょう。

自強の課題:同盟を持続させる実質的な基盤

ウクライナ紛争は、「自強なき同盟」の脆弱さを浮き彫りにしました。外部支援の効果を発揮するには、初期の衝撃を吸収できる内在的な防衛力が不可欠です。外部支援は政治的判断で縮小・撤回される可能性があるため、自強の重要性は一層高まっています。自強は単なるスローガンではなく、実際に機能するシステムでなければなりません。

トランプ政権による在韓米軍縮小の可能性言及以降、日豪中心のインド太平洋安全保障再編の中で、韓国の戦略的地位が不安定化する懸念が高まっています。核武装は世論の支持を得ていますが、韓米同盟への影響は無視できません。必要な自強は同盟に代わる手段ではなく、同盟を持続させる基盤です。統合抑止力、自律的な偵察・監視能力、独自指揮統制能力は韓国の安全保障の柱であり、これらが備わってこそ外交も戦略的柔軟性を持つことができます。

友邦の条件:利害共有と危機対応能力

同盟に亀裂が生じる中で、韓国は有事の際、米国以外に実際に安全保障に貢献できるパートナーは誰なのかという根本的な問いに直面しています。日本、オーストラリア、一部のNATO加盟国との戦略対話はあるものの、韓国防衛を前提とした協力体制は事実上存在しません。

NATO+IP4構想やグローバルパートナーシップ拡大は多国間安保の可能性を示唆しますが、トランプ体制下でのNATOの結束力低下により、実効性に疑問が残ります。米国との戦略的摩擦が生じた場合、韓国は外交的に孤立する可能性があります。外交的連携は宣言ではなく、持続可能な構造でなければなりません。

友邦の条件は「価値共有」ではなく「利害共有」です。韓国の安全保障環境と実質的な関連性を持ち、危機時に政治的リスクを負う意志のあるパートナーだけが真の友邦と言えるでしょう。日本は歴史問題や政治的制約から条件付きパートナーにとどまっています。豪印はインド太平洋地域で重要ですが、朝鮮半島有事への介入は限定的です。欧州主要国も戦略資産は保有していますが、北東アジア危機を優先するかは不明です。

韓国は韓米同盟を中心としつつも、防衛産業・情報・経済安全保障など多層的な友邦体系を構築すべきです。信頼できる友邦を探すのではなく、自ら作り出す段階に来ています。

中露との関係:管理可能な距離と戦略的自律性

ロシアとの関係は断絶ではなく、「管理可能な距離」を維持することが重要です。ウクライナ侵攻以降、朝露軍事協力の進展により、韓国外交におけるロシアの影は薄くなりましたが、北朝鮮問題や安全保障環境再編において一定の関与は避けられません。必要なのは、政治的象徴性を避けた経済・文化交流、政策対話ラインの復元、低強度の戦略的接触です。これは将来の交渉の余地を残す安全弁となる可能性があります。

中国との関係は分野別の戦略的自律性に基づくべきです。THAAD配備以降、韓中関係は構造的な停滞に陥り、米中戦略競争は韓国の立場を制約しています。しかし、中国は依然として主要貿易国であり、サプライチェーンの要です。安全保障・軍事分野では米国中心体制を維持しつつ、通商・環境・エネルギーなど非安全保障分野での協力再開が必要です。特に、地方政府、企業、学術界など民間レベルの交流は、高官級外交よりも現実的かつ持続可能です。

韓国は中露と同盟関係を結ぶことはできませんが、敵対的な孤立も得策ではありません。断絶した対話と調整不可能な危機構造は外交リスクを高めます。韓国外交に必要なのは、公式チャンネルを補完する静かで柔軟な接触経路、すなわち「ステルス外交戦略」です。均衡を保つ戦略的余裕こそが、強固な同盟と同様に国家生存の要諦であることを、ロシア・ウクライナ紛争は示唆しています。