高次脳機能障害。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、脳梗塞や事故などで脳に損傷を受けた結果、記憶力や注意力の低下、計画性の欠如といった困難に直面する人々がいます。今回は、高次脳機能障害が貧困につながるメカニズム、そして社会との繋がりを取り戻すためのヒントを探ります。
脳の不自由さがもたらす日常生活の困難
2015年に脳梗塞を発症し、高次脳機能障害を経験した鈴木大介氏は、著書『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎)の中で、自身の体験を赤裸々に綴っています。一見すると「だらしなさ」と捉えられかねない行動の背景には、脳の機能障害による想像を絶する苦しみがあるのです。
売店での買い物:数字が頭から消える恐怖
鈴木氏は、病院内の売店で買い物をしようとした際、店員が告げた3桁の金額を支払うことが出来ませんでした。「788円です」と言われても、財布を開けた瞬間、その数字は頭から消えてしまいます。何度も数え直そうとしても、数えた数字さえも忘れてしまうのです。周囲の音や会話が、まるで脳内のメモを燃え上がらせて消し去るように、思考を妨げます。
売店での買い物イメージ
これは「ワーキングメモリ」(作業記憶)の低下を示す典型的な症状です。ワーキングメモリとは、思考や計算のために情報を一時的に保持する脳の機能。この機能が損なわれると、日常生活の様々な場面で支障をきたします。また、周囲の音に気を取られて思考が中断されるのは「注意欠陥」の症状でもあります。
社会との断絶:貧困の悪循環
高次脳機能障害は、就労や社会生活に大きな影響を与えます。記憶力や注意力の低下は、仕事のパフォーマンスを低下させ、解雇につながる可能性も。コミュニケーションの困難は、人間関係の構築を阻害し、社会的な孤立を深めます。このような状況は、経済的な困窮を招き、貧困の悪循環に陥りやすくなります。
専門家の視点:高次脳機能障害への理解と支援の必要性
脳神経内科医の山田先生(仮名)は、「高次脳機能障害は外見からは分かりにくいため、周囲の理解が得られにくい」と指摘します。「適切な支援や配慮があれば、社会参加も可能になるケースも多い。社会全体で、高次脳機能障害への理解を深めることが重要です。」
希望の光:リハビリテーションと社会復帰
高次脳機能障害は、リハビリテーションによって症状の改善が期待できます。認知機能訓練や作業療法などを通じて、失われた機能の回復を図り、日常生活の自立度を高めることが可能です。
就労支援:個々の能力に合わせた働き方
就労支援機関では、高次脳機能障害を持つ方の個々の能力や適性に応じた仕事探しや職場定着のサポートを行っています。障害特性を理解した上で、働きやすい環境を整備することで、社会復帰への道を切り開くことができます。
リハビリテーションのイメージ
高次脳機能障害と貧困は、複雑に絡み合った社会問題です。見えない苦しみに寄り添い、理解を深めることで、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指しましょう。