志村けんさん、麻布十番での知られざる素顔:行きつけバーのオーナーが語る思い出

志村けんさん。日本を代表するコメディアンの訃報から5年が経ちました。新型コロナウイルスという未曾有の危機の中で惜しまれつつこの世を去った志村さん。享年70歳。お茶の間を笑いで包み込んだ彼の、プライベートでの意外な一面を、行きつけのバーのオーナーが初めて語ってくれました。麻布十番の夜、志村さんはどんな時間を過ごしていたのでしょうか。

バーでの出会い:腰の低い意外な姿

志村さんが初めて「THE BEACH」に訪れたのは2010年。オーナーの伊藤修義さんは当時を振り返ります。芸能人が多く訪れる麻布十番という土地柄もあり、伊藤さんは最初、志村さんだと気づかなかったといいます。

アポロキャップを深く被り、地味なジャンパーにデニム、スニーカー姿。腰をかがめて入店する様子は、まるでご老人のようだったと伊藤さんは語ります。さらに、年齢の離れた若い女性二人を伴っていたこともあり、まさか国民的スターである志村さんだとは思いもよらなかったそうです。

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カウンターに座り、「芋焼酎はあるか?」と尋ねる低い声。そこで初めて、伊藤さんは目の前の人物が志村けんさんであることに気づいたのです。お忍びであろう志村さんに気づかぬふりをした伊藤さん。カウンター席で、志村さんは両脇に女性を座らせ、中央に腰を落ち着けました。

焼酎ロックと優しい笑顔:気さくな振る舞い

黒霧島をロックで注文した志村さん。一方、両脇の女性にはカクテルを勧めるなど、気遣いを見せる一面も。女性たちに耳元で何かを囁くたびに、彼女たちは楽しそうに笑っていたといいます。

「今度、あの店に行こうか」といった他愛もない会話だったそうですが、その様子はまるで父親と娘のようだったと伊藤さんは回想します。ソウルミュージックが流れる店内で、「こんなところに(麻布十番に)こんな店があるんだね」と興味深そうに語る志村さんの姿が印象的だったそうです。その日は焼酎を4~5杯ほど飲み、2時間ほどで店を後にしました。

常連客としての志村さん:気取らない人柄

その後、志村さんは「THE BEACH」の常連客となりました。いつも気取らない服装で、一人でふらりと訪れることもあれば、女性を伴って賑やかに過ごすこともあったそうです。

「有名人なのに偉ぶったところが全くなく、誰に対しても優しく接する人でした」と伊藤さんは語ります。お酒を酌み交わしながら、仕事の話をすることはほとんどなかったといいます。

静かにグラスを傾ける夜:思い出のキープボトル

志村さんが好んで座っていたのは、カウンターの端の席。静かにグラスを傾け、時折、優しい笑顔を見せることもあったそうです。今でも、志村さんがキープしていた焼酎のボトルは、店の一角に大切に保管されています。

時が経っても、志村さんの温かい人柄とユーモア溢れる姿は、多くの人々の心に生き続けています。麻布十番の静かなバーで過ごした時間、それはきっと、舞台の上とは違う、素顔の志村けんさんだったのでしょう。