「鬼滅の刃」特大ヒットの陰に潜む課題:映画館マナー違反の実態と快適な鑑賞のために

2025年7月18日に封切られた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、公開からわずか3日間で前作『無限列車編』を9億円も上回る55億円という驚異的な興行収入を記録し、その社会現象的な人気を改めて証明しました。しかし、この前代未聞の成功の裏側で、SNS上では映画館における観客の鑑賞マナー違反に関する報告が後を絶ちません。多くのファンが、普段映画館に足を運ばない層の流入が、こうした迷惑行為の増加に繋がっていると指摘しています。

映画「鬼滅の刃 無限城編」のキービジュアル。鑑賞マナーの重要性が増す中、作品への没入感を維持するための観客への配慮が求められています。映画「鬼滅の刃 無限城編」のキービジュアル。鑑賞マナーの重要性が増す中、作品への没入感を維持するための観客への配慮が求められています。

『鬼滅の刃』ブームが招いた観客層の変化とマナー問題

今回の映画館マナー問題の根底には、『鬼滅の刃』が持つ圧倒的な国民的人気によって、従来の映画ファンだけでなく、多種多様な層の観客が劇場に足を運ぶようになったという背景があります。SNSでは「普段映画館に来ない層がどっと押し寄せている」との指摘が多く、映画館が共有の空間であるという認識や基本的な映画鑑賞ルールが希薄な観客が混在している状況が伺えます。

報告されるマナー違反は、子供たちによるものに留まりません。「小学生の集団が上映中ずっと騒がしかった」といった目撃談に加え、「2時間静かにできない子供を連れてくる親に問題がある」といった親への批判も一部で見受けられます。しかし、問題は子供だけに限りません。大人による問題行為も多数報告されており、幅広い年齢層に支持される作品であるがゆえに、年齢を問わず映画館のマナーを十分に理解していない観客が入り混じっている現状が浮き彫りになっています。

映画館の没入感を損なうデジタル機器の光害

最も多く報告されている迷惑行為の一つが、上映中のスマートフォンやスマートウォッチによる光の問題です。映画館は映像作品への深い没入感を提供するため、完全に暗転した環境が設計されています。そのため、たとえわずかな画面の明かりであっても、周囲の観客にとっては集中を妨げる大きな妨害となります。

「そのピカピカ光る板叩き割るぞ」というファンの声からは、光害への根深い怒りが伝わってきます。2時間35分という長尺の作品であるにも関わらず、メッセージの確認や時刻のチェックのためにスマホを使用する観客も散見されるようです。同様に、スマートウォッチの画面も暗闇で輝き、デジタル機器全般による光害が、映画の没入感を著しく損ねています。さらに悪質なケースでは、劇場内での撮影行為も横行しており、「インスタに盗撮動画が流れている」とファンが警鐘を鳴らすように、SNS上で劇場内での盗撮と思しき動画が拡散される事態も発生しています。

上映中の私語と退席時の配慮欠如

上映中の私語も深刻な問題です。作品に対する興奮からか、「隣の人が独り言を話したり、ハッ!と声を出したりしていた」といった声も聞かれます。作品への熱意ゆえの反応とはいえ、2時間35分という長時間の映画鑑賞においては、周囲への配慮が不可欠です。

また、エンドロールが始まった直後の退席時にも、マナー違反が頻発しています。「エンドロールが始まった瞬間にスマホのライトを点けて出て行った」「堂々と通路を横切っていった」など、他の観客への配慮を欠いた行動が相次いで報告されています。座席の前を横切る際も、「腰を低くしたり、素早く通るなど、最後まで作品を鑑賞している人への配慮がほしい」といった声が寄せられています。

快適な映画鑑賞のための観客の知恵と業界の取り組み

一方で、「大人ばかりで客層が良く、治安が快適だった」「奇跡的にマナーの悪い客はいなかった」といった、快適な映画鑑賞体験の報告も多数寄せられています。マナーの悪い観客に遭遇するかは「運」の要素も大きいものの、一部の熱心なファンは、問題回避のための戦略的な鑑賞プランを実践しています。具体的には、「朝一番の上映か、最終上映に行くべきだ」と時間帯を提案する声や、「公開から時期をずらして観る」「人が落ち着いている平日に鑑賞する」といった曜日選びの観客の知恵が共有されています。

こうした鑑賞マナーのトラブルを予見していたかのように、TOHOシネマズでは、人気キャラクターである元音柱「宇髄天元」らが登場するマナー講座動画を上映しています。しかし、残念ながら現状では、マナーに欠ける観客によって、作品を心から楽しめないファンが一定数存在しており、すべての観客が快適に『鬼滅の刃』の世界観を堪能できるような鑑賞環境の整備が強く望まれています。

参考文献