トランプ米大統領による次期駐マレーシア米大使の指名を巡り、マレーシア国内で強い抗議の動きが広がっています。指名されたニック・アダムス氏の過去のイスラエル寄りの発言が、イスラム教徒が多数を占めるマレーシア国民の反発を招いているためです。この動きは両国間の外交問題に発展しかねない情勢にあり、類似の懸念がシンガポールで指名された大使候補にも向けられています。
マレーシアでの抗議とアダムス氏の背景
次期駐マレーシア大使に指名されたのは、熱心なトランプ支持者として知られるコメンテーターのニック・アダムス氏です。アダムス氏は自身の交流サイト(SNS)で度々イスラエル支持を表明しており、昨年9月には、パレスチナ自治区ガザ地区南部のラファから「すべてのイスラム組織ハマスのテロリスト」を排除し、「54ホールのゴルフリゾート」を整備すべきだと主張していました。また、自身を「独身、アルファ・メール(群れを率いる雄)、大成功、トランプ大統領のお気に入りの作家」と評価するなど、その挑発的な言動が注目を集めています。
首都クアラルンプールの米国大使館前では7月18日、アダムス氏の指名に対する抗議集会が開かれました。参加者たちは「マレーシアに人種差別主義者やイスラム教嫌いのための場所はない」といったプラカードを掲げ、怒りを表明しました。新大使は米上院の承認を経て正式に任命されますが、アンワル首相は現時点では静観の姿勢です。しかし、地元メディアは閣僚が受け入れ国として承認しない可能性を示唆しており、外交上の摩擦が懸念されます。マレーシアはトランプ政権の高関税政策に反発し、現在も協議を続けているほか、イスラエルとは国交がなく、一貫してパレスチナ擁護の立場を取っています。オーストラリア出身のアダムス氏は2021年に米国の市民権を取得しており、トランプ氏は彼を「信じられないほどの愛国者」と評しています。
マレーシアのクアラルンプールにある米国大使館前で、トランプ政権による米大使指名に抗議する市民たちの集会風景
シンガポール大使指名にも高まる懸念
一方で、シンガポールでも新たな駐米大使に指名されたインド系の医師、アンジャニ・シンハ氏への不安視が高まっています。7月上旬に米上院外交委員会で行われた公聴会で、シンハ氏が民主党議員からの基本的な質問に答えあぐねる様子が報じられると、交流サイト(SNS)では「長期休暇にでも来るつもりか」「巨額の献金をすれば誰でも大使になれる」といった批判が相次ぎました。シンハ氏は米国内で複数の診療所を経営する実業家であり、「トランプ氏の長年にわたる友人」(共和党議員)とされています。ルビオ米国務長官はこれまで「インド太平洋地域は米国の外交政策の中心だ」と繰り返し述べていますが、今回の大使人事におけるトランプ政権の対応は、「地域軽視」と受け止められる可能性も指摘されています。
結論
今回の米大使人事を巡る動きは、トランプ政権の外交方針や、主要同盟国との関係構築における課題を浮き彫りにしています。特にマレーシアにおけるアダムス氏の指名への反発は、宗教的、政治的な背景が絡み合う複雑な国際関係の一端を示しています。各国がこの問題にどう対応していくか、今後の動向が注目されます。