東京エレクトロンCEO河合利樹氏に聞く、半導体市場の未来と成長の秘訣

半導体業界を牽引する巨人、東京エレクトロン。設立62年を迎える今年、売上高は10年間で4倍、営業利益は8倍に成長し、業界で「スーパー乙」と呼ばれるまでに至りました。サムスン電子やTSMCも同社の装置なしでは半導体製造は不可能と言われるほど、その存在感は圧倒的です。今回は、CEO河合利樹氏に、半導体市場の未来と東京エレクトロンの成長の秘訣について伺いました。

AI時代の半導体市場:10倍成長の可能性

河合氏は現在のAI産業を「幼児期から青少年期」と表現し、AI、AR、VR、自動運転などの技術が市場を牽引する第二段階に入ったと分析します。半導体市場は2030年には1兆ドルを超え、さらに量子コンピューティング、6G、7G時代が到来する2050年には現在の10倍規模に成長すると予測しています。

河合利樹CEO河合利樹CEO

技術革新こそ成長の鍵:2万2000件以上の特許

急激に変化する半導体市場で勝ち抜くためには、技術革新が不可欠です。東京エレクトロンは、半導体製造装置業界で世界最多の2万2000件以上の特許を保有しており、これが最大の強みとなっています。今後5年間で1兆5000億円以上の研究開発投資、7000億円の設備投資を計画し、グローバルで年間2000人の新規雇用を行うことで、3兆円以上の売上高、35%以上の営業利益達成を目指します。

世界シェア100%のEUV露光用塗布・現像装置

東京エレクトロンの重要性は、半導体製造の核心工程である露光工程を見れば明らかです。同社の極端紫外線(EUV)露光用塗布・現像装置は世界シェア100%を誇り、この装置なしでは半導体の「図面」を描くことすらできません。洗浄、薄膜、現像、エッチングなど他の重要工程でも高い市場シェアを誇り、半導体製造装置市場全体で世界4位に位置しています。

技術商社から世界トップメーカーへ:挑戦の歴史

1963年の創業当時、東京エレクトロンは技術専門商社でした。創業者が見据えた未来は、当時まだ黎明期だった半導体業界にありました。米国から半導体検査装置を輸入するという挑戦から始まり、試行錯誤を繰り返しながら技術力を蓄積。日本の半導体産業の成長と共に発展し、海外進出を加速させ、今日の地位を築き上げました。

成長の秘訣は「人」:1.0%の離職率

河合氏は成長の秘訣を「人」だと断言します。優秀な人材を採用し、モチベーションを高めることで離職率はわずか1.0%に抑えられています。東京エレクトロンでは、地域に関わらず同等の給与体系を導入し、基本的に解雇はありません。人材こそが最大の資産という考え方が根底にあります。

多様な人材を求めて:CEO自身のキャリアパス

1963年生まれの河合氏は、明治大学経営学部卒業後、1986年に東京エレクトロンに入社しました。大学時代はゴルフ部に所属し、体力がある学生を求める企業からの誘いを受け入社を決意。社長就任は想像もしていなかったという河合氏は、入社当初の目標は「一人前になること」だったと語ります。

意思疎通と信頼:成功への道筋

半導体に関する知識が乏しかった河合氏が成長できたのは、顧客、サービスチーム、工場設計部署など、様々な人々との「意思疎通」があったからこそ。半導体ビジネスは一人で完結するものではなく、マーケティング、製品企画、開発、製造、納品、設置、アフターサービスまで、全ての工程が重要です。だからこそ、意思疎通と信頼関係の構築が不可欠となります。

失敗から学ぶ:成長の糧

河合氏は「失敗は当然許される」と述べ、失敗から得た教訓を今後の発展に活かすことの重要性を強調します。そして、韓国の顧客との協力を通じて、半導体産業と韓国経済に貢献していくと表明しました。