世界の超富裕層(UHNWI)にとって「豊かに暮らす」ためのコストが高い都市の地図が、静かに変化の兆しを見せています。長年、世界の富裕層の拠点であり続けてきたシンガポール、ロンドン、香港などの都市が依然として上位を占める一方で、ドバイ、バンコク、そして東京といったアジア・中東の新興都市が急速にその存在感を高めています。この動きは、世界の富の分布とラグジュアリー市場の新たな潮流を示唆しています。
スイスの資産運用会社であるジュリアス・ベア・グループが発表した最新の「グローバル・ウェルス・アンド・ライフスタイル・レポート(2025年版)」は、この変化を明確に浮き彫りにしています。同レポートによれば、富裕層の消費傾向も変化しており、単なる物質的な豊かさだけでなく、ウェルネス(健康と心身の充足)、安定した環境、そして唯一無二の体験を重視する傾向が強まっていると指摘されています。
最新ランキング:シンガポール首位継続、ロンドン浮上、香港後退
ジュリアス・ベア・グループのレポートによると、富裕層が「豊かに暮らす」ためのコストが世界で最も高い都市として、シンガポールが3年連続で首位に輝きました。長らくトップグループを形成してきたロンドンは2位に浮上し、前年より順位を上げた一方、香港は3位に後退しました。これら上位3都市の顔ぶれは比較的安定していますが、その背後では、世界のラグジュアリー拠点における勢力図を書き換える可能性のある静かな変化が進行しています。
新興ラグジュアリー拠点としてのドバイ、バンコク、東京
レポートが特に注目しているのは、ドバイ、バンコク、そして東京といったアジアや中東の主要都市の急速な台頭です。これらの都市は、富裕層にとって新たなラグジュアリー拠点として存在感を増しており、従来の金融ハブや文化の中心地と並ぶまでに成長しています。これは、富の源泉が世界的に分散し、新たな経済圏が成熟しつつある現状を反映していると言えるでしょう。一方、上海やニューヨークといったかつての消費の中心地では、ライフスタイルの変化や政治情勢の影響により、富裕層の消費傾向が変わり、ランキングの順位を下げています。
ドバイの近代的な高層ビル群と活気ある都市景観。富裕層にとって新たなラグジュアリー拠点として台頭するドバイの象徴。
富裕層の消費傾向の変化:ウェルネスと体験重視
ジュリアス・ベアの「グローバル・ウェルス・アンド・ライフスタイル・レポート」では、富裕層の消費行動に顕著な変化が見られることが指摘されています。彼らはもはや単に高級品を所有することだけではなく、精神的・肉体的なウェルネス、安定した社会環境、そして記憶に残る体験に価値を見出すようになっています。これは、パンデミックを経て人々の価値観が変化したことに加え、世界情勢の不確実性が増す中で、より本質的な豊かさを求める傾向が強まっているためと考えられます。
調査方法と限界
このレポートは、「豊かに暮らす」ためのコスト、すなわち富裕層が日常的に利用する20種類の高級品やサービスにかかる費用を追跡調査することで算出されています。対象品目には、私立学校の学費、高級不動産、高級時計、高級レストランでの食事、ビジネスクラスの航空券などが含まれ、2024年11月から2025年3月にかけて世界25都市で価格データが収集されました。これらの価格データは米ドル換算され、20項目すべての加重平均総コストに基づき都市の順位が決定されています。
この価格指数を補完するため、ジュリアス・ベアは2025年2月から3月にかけて15カ国の富裕層360人を対象とした「ライフスタイル調査」も実施し、彼らの実際の消費・投資動向についてアンケート調査を行っています。
調査手法は信頼性が高いものの、いくつかの限界も存在します。例えば、データ収集後に発生した地政学的変動(例:トランプ政権による4月の関税発表)は反映されていません。また、サンプル数が比較的小規模であるため、広範な結論を導くには慎重な解釈が必要です。それでも、この調査結果からは、特にアジアや中東の主要都市が急速に順位を上げているなど、世界のラグジュアリー拠点における勢力構図の変化がはっきりと読み取ることができます。
まとめ
ジュリアス・ベア・グループの「グローバル・ウェルス・アンド・ライフスタイル・レポート」が示すように、世界の超富裕層が「豊かに暮らす」ためのコストが高い都市のランキングには、顕著な変化の兆しが見られます。シンガポールが首位を維持しつつも、ロンドンと香港の順位が入れ替わり、特にドバイ、バンコク、そして東京といった新興都市の台頭が目を引きます。これは単なる都市の順位変動に留まらず、富の世界的分布の変化、富裕層の価値観の多様化、そして新たなラグジュアリー市場の形成を示唆しています。今後も、これらの都市が世界の富裕層にとってどのような魅力的な選択肢となり、世界の経済地図にどのような影響を与えるのか、その動向が注目されます。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 「豊かに暮らす」ためのコストが高い世界都市ランキングで、長年富裕層の拠点だった都市と肩を並べるまでにドバイが台頭してきている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a14249ad4768d8bb7ee3ffc6381709a9ba89129c