カンボジアのフン・セン首相が野党指導者サム・レンシー氏の帰国を拒み、国内では野党支持者多数を逮捕して強権姿勢をあらわにしている。
同国では昨年、総選挙が実施されたが、サム・レンシー氏が率いる救国党が排除された結果、フン・セン氏の与党人民党が全議席を獲得した。事実上の独裁体制である。これを譲る気はないということだろう。
強権統治の背後にあるのは、大型投資など経済力をテコに結びつきを強めた中国の存在だ。
ペンス米副大統領は対中政策に関する演説で、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」を利用して世界中の港に足場を築いているとし、カンボジアでの海軍基地建設の秘密協定報道にも言及した。
中国の覇権主義を警戒しなくてはならない。同時に、中国の勢力圏拡大に伴い一党独裁で反対勢力を認めない中国式の強権統治が、世界各地に拡散する危険があることを忘れてはならない。
軍事政権下のミャンマーやクーデター後のタイなど、国際的に孤立した国々に中国は歩み寄る。欧米諸国や日本と違い、「民主化後退」は問題にならないからだ。
フン・セン首相はカンボジア内戦時代の1985年に就任して以来、30年以上権力の座にある。2013年の総選挙で躍進した野党救国党はその後、サム・レンシー氏に逮捕状が出て国外へ逃れ、党は解散に追い込まれた。
したがって昨年の総選挙は、自由・公正に実施されたとはいえない。欧米諸国は批判するが、中国はもちろん口出ししない。
今月初めにタイで開催された東アジアサミット(EAS)など東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会合は、中国が軍事拠点化を進める「南シナ海」が重要テーマだった。
日米とともにASEANの周辺国が軍事化阻止へ中国への圧力を強める中、カンボジアはASEAN内にあって中国の代弁者として存在している。
1993年、カンボジア民主化への第一歩として、国連主導の総選挙が実施された。日本は和平交渉の段階から深く関与し、平和維持や国造りにも貢献した。
四半世紀を経て行き着いたのが、中国が支える事実上の独裁体制ではあまりに情けない。フン・セン政権の強権統治をいつまでも見過ごすわけにはいくまい。