英国政府は、ロンドンに新築が計画されている中国の「巨大大使館」について、提出された設計図面に隠された部分の正確な情報を提供するよう、中国大使館に公文書で要求しました。この要求は、外交施設の巨大化が情報収集活動の拠点となる可能性に対する米英両国の深刻な懸念を浮き彫りにしています。不透明な設計図や用途不明の地下施設が、すでに高まっていた「スパイ拠点」化の疑惑に拍車をかけています。
英政府、不透明な設計図の詳細開示を要求
英国の住宅・コミュニティ・地方自治省は6日、中国政府が提出した大使館建設計画の設計図面に、黒塗りやグレー処理された部分が多数存在し、その用途が不明な地下施設も含まれていることを指摘しました。これに対し、英政府は中国側に対し、これらの隠された部分について詳細かつ正確な情報を提供するよう求める公文書を送付しました。この異例の要請は、外交施設の透明性と国家安全保障への配慮を求めるものです。
巨大大使館計画に潜む「スパイ拠点」疑惑と米英の懸念
中国が旧王立造幣局の敷地に建設を計画している新大使館は、ロンドンの金融街を走るデリケートな情報通信ケーブルの経路に極めて近い場所に位置しています。この立地から、大使館が欧州における広範な「スパイ拠点」となり得るのではないかとの批判がこれまでも提起されてきました。
米ホワイトハウスは6月7日、「中国が新大使館の敷地を通じて、我々の親しい同盟国である英国の機密性の高い通信システムに潜在的に接近する可能性があり、深く懸念している」との声明を発表。さらに米国家安全保障会議(NSC)も、「新しい大使館の敷地はロンドンの金融中心街の境にあり、米国の銀行が使用する重要な通信ケーブルが通っている場所だ」と明確に警告しています。英タイムズ紙は、米国の旧大統領が英国首脳に対し許可を拒否するよう求めたと報じました。
英国の野党・保守党は、計画が「スパイ拠点」となり国家安全保障が脅かされるにもかかわらず、現労働党政権が看過していると非難し、建設に反対の意を表明しています。また、反中団体は、大使館内の地下施設が香港から脱出した反体制派人物を不法に抑留・尋問する場所として利用されるのではないかとの強い懸念を表明しており、ロンドンでは計画に反対するデモも行われています。
ロンドンに計画される中国の巨大大使館と情報収集活動の懸念を示すイラスト
欧州最大規模となる新大使館の背景と歴史
中国は2018年、かつて英王室が所有していた旧王立造幣局の建物と敷地を、2億5500万ポンド(約506億円)で取得しました。この敷地の面積は5.4エーカー(約2万1853平方メートル)に及び、完成すれば欧州で最大の中国大使館となる見込みです。計画には約200人の職員のための宿舎も含まれています。
比較として、ロンドンにある米国大使館の敷地は約4.9エーカー(約1万9829平方メートル)であり、中国大使館の計画規模がいかに大きいかが分かります。また、韓国の首都ソウルにある、元中華民国(台湾)大使館だった中国大使館の敷地は9831平方メートルですが、延べ面積は1万7199平方メートルで、韓国国内の外国大使館の中で最も規模が大きいです。
中国政府が大使館の移転先として選定した旧王立造幣局は、ロンドン塔の道の向かいに位置する歴史的な場所であり、1809年から1975年まで英国の硬貨を鋳造してきました。この歴史的建造物を含む敷地は、英王室が2010年に民間の不動産開発会社に売却した後、中国政府の手に渡った経緯があります。
結論
ロンドンにおける中国の巨大大使館建設計画は、単なる外交施設の拡大に留まらず、その規模と戦略的立地から、英国および同盟国の国家安全保障に関わる深刻な懸念を引き起こしています。英政府による設計図の詳細開示要求は、この疑惑を解消し、透明性を確保するための重要な一歩です。計画の今後が、米英中関係および地政学的バランスに与える影響は大きいと見られています。