北朝鮮で精巧なニセ札が大量に出回り、経済不安をさらに深刻化させている。北朝鮮ウォンだけでなく、中国元や金券「トンピョ」まで偽造され、当局の取り締まりも効果を上げていない現状だ。北朝鮮内部の取材協力者からの情報に基づき、その実態に迫る。
ニセ札所持も犯罪?当局の摘発強化と市民の不安
市場の裏道で商行為をする人々。こうした場所でニセ札が多く出回っているようだ。2024年10月、両江道の恵山市を中国側から撮影アジアプレス
平安南道平城市を中心に、北朝鮮国内でニセ札の流通が深刻化している。特に5000ウォン札、中国の20元札、そして金券「トンピョ」の偽造が多いという。当局は人民班を通じてニセ札の申告を呼びかけているが、所持しているだけでも処罰の対象となるため、市民は不安を募らせている。
北朝鮮内部の取材協力者によると、ニセ札の使用はもちろん、所持しているだけでも犯罪行為とみなされ、処罰の対象となるという。当局はニセ札の流通阻止に躍起になっているものの、効果的な対策は見出せていないようだ。
困窮する市民、申告すれば損をするジレンマ
中国の1元札のお釣りを渡そうとする商売人の女性。今や中国元のニセ札まで出回っているという。2013年10月両江道にて撮影アジアプレス
ニセ札を受け取った場合、本来は当局に申告すべきだが、実際には多くの人がこっそりと使用したり、他の人に渡したりしているという。なぜなら、申告しても当局は没収するだけで、代わりの紙幣を提供しないからだ。つまり、正直に申告すれば損をすることになる。
この状況は、北朝鮮経済の専門家である金哲洙氏(仮名)も指摘しており、「ニセ札問題の根底には、慢性的な経済難と通貨への不信感がある」と分析している。
国営工場も被害に!120万ウォンのニセ札が納金される
恵山市のある国営工場では、経理担当者が銀行に納金した金額のうち、120万ウォンがニセ札だったという事件が発生した。経理担当者は警察と検察の調査を受けたが、市場での取引を通じてニセ札を受け取ったことが判明し、市場への注意喚起が行われた。
ニセ札の流通はますます深刻化しており、大金を取引する際には紙幣選別機の導入や銀行での検査が推奨されている。しかし、これらの対策も万能ではなく、根本的な解決には至っていないのが現状だ。北朝鮮経済の専門家である朴美玲氏(仮名)は、「ニセ札の蔓延は、市場経済への移行に伴う混乱と、経済制裁の影響が重なった結果だ」と述べている。
ニセ札問題、北朝鮮経済のさらなる悪化を招く恐れ
北朝鮮におけるニセ札の蔓延は、経済の不安定化を加速させる深刻な問題だ。当局の取り締まり強化にもかかわらず、流通に歯止めがかからない現状は、市民生活への影響も懸念される。今後の動向に注視していく必要がある。