【モスクワ=小野田雄一】ロシアは17日、昨年11月に「領海侵犯」を理由にケルチ海峡で拿捕(だほ)していたウクライナ海軍艦艇の返還手続きを開始した。イタル・タス通信が伝えた。ウクライナ政府などはこれに先立ち、ゼレンスキー大統領とプーチン露大統領による初の直接会談が12月9日にパリで実施される予定だと発表しており、艦艇返還は会談に向けた地ならしとみられる。会談では、ウクライナ東部で続く同国軍と親露派武装勢力の紛争終結に向けた進展が見られるかが最大の焦点となる。
ロシアが拿捕していた艦艇3隻の移動作業は17日に始まり、18日に黒海の中立海域でウクライナ側に引き渡される予定。
2014年の勃発(ぼつぱつ)以降、ウクライナ東部紛争では約1万3千人が犠牲になった。ウクライナとフランスの両大統領府は15日、ウクライナとロシア、仲介役のフランス、ドイツの4カ国枠組みによる首脳会談を12月9日にパリで行うことで各当事国が合意したと発表していた。4カ国の枠組みによる首脳会談は16年10月以来。
今年5月に大統領に就任したゼレンスキー氏は、ウクライナ東部紛争を、親露派武装勢力の背後にいるロシアとの対話を通じて解決する意向を示してきた。
両国は9月、捕虜とみなしてきた刑事被告人ら35人ずつの交換を実施。10月には、親露派勢力が実効支配する東部地域で「適正な選挙」を行った上で、この地域に高度な自治権など「特別な地位」を与える-との工程表にも基本合意した。11月上旬には、ウクライナ軍と親露派勢力の双方が前線からの兵力撤退を完了させるなど、対話への機運が高まっていた。
ただ、東部地域への「特別な地位」の付与をめぐっては、ウクライナ国内には「実質的なロシアの実効支配地域を国内に抱えることになる」といった懸念が強く、大規模な抗議デモも起きている。ゼレンスキー氏にとって、ロシアへの“譲歩”と受け取られかねない合意を行うのは困難な情勢で、会談は物別れに終わる可能性も指摘されている。
艦艇拿捕事件は昨年11月25日に発生。ロシアが14年に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島近くのケルチ海峡で、ロシアの沿岸警備艇がウクライナ海軍艦艇3隻を拿捕し、乗組員ら24人を拘束した。乗組員らは今年9月の「捕虜交換」で解放されている。