台湾デジタル担当大臣オードリー・タン氏、AIと中国の脅威について語る

台湾は、中国からの軍事的な圧力に加え、世界でも有数のサイバー攻撃の標的となっています。元デジタル担当大臣で現無任所大使のオードリー・タン氏は、AI技術の進歩と中国の脅威について、独自の視点を語っています。本記事では、タン氏のインタビューを中心に、台湾が直面する課題と未来への展望を探ります。

AIの未来:自我を持つAIの危険性

AI競争の二つの側面

タン氏は、AIの未来における最大の脅威は「自我を持つAI」だと警鐘を鳴らします。まるでSF映画のような話ですが、今後10年以内に、自己認識を持ち、生存本能を持ったAIが登場する可能性は決して低くないと多くの専門家が指摘しています。

タン氏は、現在のAI競争には二つの側面があると説明します。一つは、AIの能力向上、データ取得、大規模言語モデル開発といった「垂直方向」の競争。もう一つは、オープンソースAIの普及と伝播に関する「水平方向」の競争です。

オードリー・タン氏オードリー・タン氏

仏教の心を持ったAI

タン氏は、AIを「何でもできる超強力な脳味噌」と捉えるのではなく、翻訳や要約といった「特定のタスク」に特化した設計が重要だと主張します。その鍵となるのが、高度な回答能力を持ちながらも、区分化され、自我を持たない、より小さな言語モデルの開発です。タン氏はこれを「仏教の心を持ったAI」と表現しています。

AI競争の勝者が米国か中国かではなく、「機械」がこの競争に勝たないことが重要だとタン氏は強調します。自我を持ったAIの誕生は、人類にとって最悪のシナリオになりかねないからです。

中国企業の台頭とオープンソースの力

ディープシークの成功の秘訣

中国企業ディープシークの急速な発展について、タン氏は、彼らがオープンソースのエコシステムを活用し、先行研究の成果の上に成り立っていることを指摘します。ディープシークは、過去の研究者たちの積み重ねた「塔」の頂上に置かれた一つの「レゴブロック」に過ぎないのです。

ディープシークの開発コストが低いと言われることが多いですが、それは「ミクスチャー・オブ・エクスパーツ(混合専門家モデル)」という技術を活用しているためです。この技術は、仏ミストラル社が開発し、メタのLLaMAをベースにしています。つまり、ディープシークの成功は、オープンソースコミュニティ全体の貢献によるものと言えるでしょう。

サイバー攻撃とハイブリッド戦争

台湾へのサイバー攻撃の実態

台湾は、毎日数百万件ものサイバー攻撃を受けています。10年以上前から、台湾は世界で最もサイバー攻撃の標的となっている国の一つです。

2022年のナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問以降、サイバー攻撃とフェイクニュースを組み合わせたハイブリッド攻撃が増加しています。例えば、サイバー攻撃で政府機関のウェブサイトを麻痺させ、その隙にフェイクニュースを拡散するといった手法が用いられています。

ハイブリッド戦術の巧妙化

駅や店頭の広告パネルをハッキングしてヘイトメッセージを流したり、選挙結果へのアクセスを妨害して偽情報を流布したりするなど、ハイブリッド戦術は巧妙化しています。海底ケーブルの「偶発的な」切断も、ハイブリッド戦争の一環である可能性が指摘されています。

台湾は、これらの脅威に立ち向かうために、AI技術を活用した対策を強化しています。タン氏は、国際社会との協力が不可欠だと訴え、民主主義と自由を守るための戦いを続けています。