東京拘置所において、医務部門で医師らに対するパワハラ(パワーハラスメント)や不当な人事権の乱用が常態化し、結果として複数の医師が退職や休職に追い込まれている深刻な事態が明らかになりました。今年6月まで同拘置所で勤務していた男性医師(50)が、この問題の実態を証言しています。
医務部長着任後の職場環境の激変
東京・小菅に位置する東京拘置所では、過去約2年間の間に、4人の医師が退職し、1人が適応障害で休職、さらに5人の非常勤医師が雇い止めとなる異常な事態が発生しています。先の男性医師は、「少しでも自分の方針に従えない者が次々と解雇されている」と現状を語ります。特に、2023年7月に別の刑務所から医務部長が着任して以降、職場の環境は一変し、パワハラや人事権の乱用が日常的に行われるようになったと指摘されています。
東京拘置所の外観。医師に対するパワハラと人事権乱用の深刻な問題が報じられ、内部告発の背景となっている。
具体的なパワハラと人事権乱用の事例
医務部長による一連の行為は、具体的な事例として浮き彫りになっています。
検視に関する内科医への不当な叱責と異動
あるケースでは、拘置所内で収容者が死亡した際、ある内科医が検視に立ち会わずに帰宅しました。この内科医は医務部長から事前に立ち会わず帰宅することを許可されていたにもかかわらず、後日、医務部長は職員が集まる朝礼の場で「こちらの指示に従えない者、方針に従えない者は辞めてもらうしかない」と叱責しました。その後、この内科医は大阪の医療刑務所への異動を命じられましたが、本来2カ月前に行われる内示が1カ月前という異例の通知でした。転勤に応じることができず、結果として退職せざるを得ませんでした。
過剰勤務による女性医師の休職
また、別の女性医師は医務部長から過剰な勤務を一方的に押し付けられ、精神的に追い詰められた結果、適応障害を発症し、休職を余儀なくされました。これらの事例は、医務部長による権限の逸脱と職員への精神的負担の実態を示しています。
法務省への公益通報とその後の展開
パワハラや人事権乱用が続く中で、先の男性医師は他の医師らとともに、2023年11月から2024年2月にかけて計5回にわたり、法務省矯正局へ公益通報を行いました。これを受け、関東矯正管区の職員による一度だけの聞き取り調査が行われましたが、最終的な判断は「医務部長の言動に不法行為はなかった」というものでした。
金沢刑務所の全景。矯正施設における透明性と説明責任の課題を象徴する。
この間も医務部長は「予算不足」を理由に、非常勤医師や非常勤薬剤師、看護師らに雇い止めを通告し続けました。そして、公益通報の最終結果が出た1週間後の2024年5月30日、先の男性医師に対し、7月1日付で埼玉県川越市にある川越少年刑務所への転勤辞令が下されました。転勤の理由は「施設運営上の都合」とされ、具体的な説明は一切ありませんでした。
この一連の出来事は、矯正施設という特殊な環境下での医療従事者の労働環境と、内部告発制度の有効性、そして組織の透明性と説明責任のあり方に大きな課題を投げかけています。
参考文献
- 東京拘置所、パワハラで医師退職に追い込む? 内部告発した医師に報復人事か (Yahoo!ニュース / AERA)