全国に林立する大量のマンション。建設されてから一定の時間が過ぎると、経年劣化をカバーするため、必ず「大規模修繕」をしなくてはならない。
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マンションの住民たちはこの修繕に備えて、安くない「修繕積立金」を支払っている。住民たちが寄り合ってつくるマンションの「管理組合」は、修繕積立金を有効に使うべく、修繕の施工会社を慎重に選定する。
しかしそのウラでは、素人集団である管理組合を「カモ」にしようと付け狙う「悪い奴ら」がうごめいている。ときには管理組合側の味方であるはずのコンサルまでがグルになっているというのだ。
マンション住民たちを食い物にする「マンション師」たちのおそるべき実態。『生きのびるマンション 〈二つの老い〉を超えて』(岩波新書)などの著書があるノンフィクション作家の山岡淳一郎氏がリポートする。
突然のガサ入れ
今年3月4日、公正取引委員会のGメンが、関東地方の分譲マンションの大規模修繕工事を請け負う約20社の施工会社に一斉に立ち入り検査をした。いわゆるガサ入れである。
容疑は、マンションの老朽化に伴う大規模修繕工事をめぐって、談合をくり返した「独占禁止法違反(不当な取引制限)」。つまり、修繕を受注するにあたって複数の企業で談合を行い、工事費をつり上げた疑いだ。
立ち入り検査を受けたのは、〈長谷工リフォーム(東京都港区)▽シンヨー(川崎市)▽中村塗装店(東京都品川区)▽建設塗装工業(同千代田区)▽日装・ツツミワークス(同豊島区)――など〉(毎日新聞・3月4日付)だった。
ガサ入れを受けた施工会社と係わりのある一級建築士は、「あの日、どの施工会社に電話しても、まったくつながりませんでした。メールを送っても返事もない。音信不通が一週間ぐらい続いたんです」と言う。
公取のGメンは、立ち入り先の社員、スタッフの携帯とパソコンをすべて押収していた。公取は、3月30日までにさらに5社ほど新たにガサ入れをする。そこには〈清水建設の完全子会社「シミズ・ビルライフケア」(東京都中央区)や業界大手「建装工業」(東京都港区)ほか数社〉(朝日新聞・3月31日付)が含まれていた。
そして、一連のガサ入れで業界の実情に触れた公取は、一級建築士を抱える設計コンサル業者にも調査の手を伸ばす。「設計コンサル業界トップのS設計に公取の調査が入ったのではないかと言われています」と一級建築士。
多くの設計コンサルは、マンションの住民(区分所有者)で構成される管理組合のアドバイザーでありながら、裏では、どの施工会社に工事を請け負わせるかを決める、闇の仕切り屋を務めている。工事を受注した施工会社は、自社に仕事を回してくれた謝礼として、設計コンサルに「リベート」を払う。マンションの管理会社にも「みかじめ料」のような裏金を渡すこともある。