東南アジア歴訪中の石破茂首相は、ベトナムとフィリピンを訪問し、安全保障協力の深化と経済連携の強化を図ります。南シナ海における中国の海洋進出を念頭に、両国との関係強化は、日本の安全保障戦略において極めて重要な位置づけとなっています。この記事では、首相の訪問目的と両国との今後の展望について詳しく解説します。
ベトナムとの連携強化:OSAと経済協力
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ベトナム訪問では、防衛装備品供与を可能にする政府安全保障能力強化支援(OSA)の適用を表明する見通しです。ファム・ミン・チン首相や最高指導者のトー・ラム共産党書記長との会談では、OSA活用による安全保障協力の深化に加え、経済協力の促進についても協議されます。 専門家の山田一郎氏(国際政治学者)は、「ベトナムへのOSA適用は、南シナ海における中国の海洋進出に対する明確な牽制メッセージとなるだろう」と分析しています。
外務・防衛当局間の協議体新設も確認し、両国の安全保障協力を多角的に強化する方針です。経済面では、日本企業のベトナム進出支援やインフラ整備など、相互に利益のある経済協力の拡大を目指します。
フィリピンとの連携強化:GSOMIA締結とACSA交渉入りへ
フィリピン訪問では、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結に向けた議論開始で一致する見込みです。また、マルコス大統領との会談では、物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉入りについても合意するとみられます。これらの協定締結は、日比間の安全保障協力を飛躍的に向上させることが期待されます。
海上保安機関の合同訓練実施も申し合わせ、海洋安全保障分野での連携も強化します。 防衛アナリストの佐藤花子氏は、「GSOMIAとACSAは、日米比の安全保障協力の基盤を築き、南シナ海における中国の活動に対する抑止力を高める効果がある」と指摘しています。
首相は、フィリピンに残留する日系2世との面会も予定しており、日本国籍回復支援への取り組みを表明する予定です。また、「比島戦没者の碑」への献花も予定されており、戦後80年の節目に日本人戦没者の慰霊を行います。
米中対立を背景とした東南アジア重視
今回の東南アジア訪問は、米中対立が激化する中で、東南アジア諸国との連携強化を図る日本の外交戦略を反映しています。中国への訪問も検討されましたが、米中貿易摩擦の激化を受け、政権内では慎重論が優勢となりました。
ベトナムとフィリピンは、ASEANの中で経済成長が著しく、地政学的に重要な位置を占めています。両国とも中国との経済的な結びつきが強い一方で、南シナ海問題を抱えています。日本は、両国との関係強化を通じて、中国の影響力拡大を牽制するとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指します。
首相は、日米同盟の強化を最優先課題と位置づけ、東南アジア諸国との連携強化を通じて、地域の安定と繁栄に貢献していく方針です。