ガソリン税の税率引き下げへ向けた動きが相次いでいる。石破茂首相は4月22日に、5月22日からガソリン価格を段階的に1リットルあたり10円引き下げる考えを表明した。また、4月24日には、自民・公明・日本維新の会の3党が、現在の税率の上乗せ部分にあたる「暫定税率」の廃止に向けた協議を行った。
ガソリン税の「減税」については、手取り増加を掲げる政策の一環として位置づけられる一方、減税が実行された場合の代替の財源確保等の問題も指摘されている。
しかし、わが国では先進国と同様、「法律なくして課税なし」という租税法律主義が採用されている(憲法84条)。したがって、本来、上述したような経済的観点からの議論以前に、法的観点からの正当性の検証が欠かせないはずである。
なぜ、ガソリン税の「暫定税率」は廃止されず、長い間続いてきているのか。納税者の視点からYouTube等を通じ積極的に税金・会計に関する情報発信を行っている黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ共同代表・公認会計士)に聞いた。
ガソリン税は「道路特定財源」だった
ガソリン税の税率は本来、1リットル28.7円(揮発油税24.3円、地方揮発油税4.4円)と定められている(本則税率)。
しかし、現在は1リットル53.8円(揮発油税48.6円、地方揮発油税5.2円)の「暫定税率」が適用されている。本則税率よりも1リットルあたり25.1円高い。
黒瀧税理士:「ガソリン税はもともと、『自動車重量税』と並んで、使い道が道路の整備・維持管理に限定された『道路特定財源』の一つでした。
ガソリン税の税率は1974年に『道路整備計画の財源が不足している』という理由で1リットルあたり53.8円の『暫定税率』が法律(租税特別措置法)で定められ、そのまま維持されてきました」
「暫定」といいながら50年以上も続いてきたことになる。国会等で見直しの動きはなかったのか。
黒瀧税理士:「2000年代に与野党問わず『構造改革』が叫ばれ、その一環として道路特定財源の見直しが検討されました。
見直しの理由として挙げられたのが、道路の整備水準の向上、道路歳出の抑制等により、道路特定財源の『税収が歳出を大幅に上回ることが見込まれる』(※)というものでした。
そのような実態があるならば、道路特定財源(ガソリン税、自動車重量税)の廃止、あるいは、存続するにしても暫定税率の撤廃が筋だったはずです。
しかし、国会・政府はそのどちらも選びませんでした。まず、2009年以降、『道路特定財源』は使い道が限定されない『一般財源』へと組み入れられました。
また、税率は『厳しい財政事情』と『環境面への影響の配慮』を理由に、『暫定税率による上乗せ分を含め、現行の税率水準を維持する』としました」
※参照:道路特定財源の一般財源化について(国土交通省)
つまり、ガソリン税の制度目的は当初、『道路整備計画の財源の不足を補うため』だったが、道路の整備水準の向上につれ形骸化していき、最終的には『厳しい財政事情』『環境面への影響の配慮』へと変遷している。