明石市の元市長、泉房穂氏が指摘するように、地方自治体の現場では悪質なクレーム対応に苦悩する職員が少なくありません。かつて明石市役所でも、手に負えないクレーマーによって精神を病む職員が続出する事態に陥っていました。しかし、ある専門職の採用が現場の空気を一変させ、市民サービスの質の向上にも寄与したのです。
悪質なクレーム対応の現状と職員の苦悩
市役所の仕事は多岐にわたり、市民の多様なニーズに応える必要があります。しかし、その中には残念ながら悪質なクレーマーも存在し、その対応には多大なエネルギーと時間が費やされがちです。泉氏が明石市長に就任する以前、一般の職員がこれらのクレームに対応していましたが、その精神的負担は大きく、離職や休職に追い込まれるケースも少なくありませんでした。このような状況は、他の多くの地方自治体でも共通の課題となっています。
明石市が導入した「弁護士職員」の効果
泉市長が就任してすぐの1年目に、明石市は弁護士を5名採用しました。当時、基礎自治体としては異例の採用人数であり、地元メディアからは「弁護士出身の市長が業界に媚びを売っている」といった批判も浴びました。4年後の市長選挙では、対立候補が「現市長が採用した弁護士をクビにする」と公約に掲げるほどでした。
悪質なクレームに対応する市役所の職員のイメージ画像
しかし、泉氏が弁護士の採用に踏み切った背景には、多様化、複雑化、高度化する市民のニーズに対応するためには、弁護士に限らず様々な専門職を市役所に適切に配置すべきだという明確な持論がありました。弁護士職員が導入されてから、現場の職員は安心して業務に集中できるようになり、悪質なクレームに対する効果的な対応が可能となりました。これは、専門知識を持つ職員が適切なアドバイスや交渉を行うことで、問題の早期解決に繋がり、職員の精神的な負担を軽減したためです。
専門職配置の重要性:弁護士を超えて
泉氏は、専門職の配置が市役所の機能強化に不可欠であると考えていました。例えば、学校現場ではスクールカウンセラー(心理職)、ソーシャルワーカー(福祉職)とともに、スクールロイヤー(弁護士)を配置しました。これは、単にクレーム対応だけでなく、教育、福祉、法律といった様々な分野で専門的な知見が求められる現代において、適切な専門家を配置することが、より質の高い市民サービスを提供し、公務員が世の中を変えるための重要な手段であるという信念に基づいています。
地方自治体の未来を拓く専門職の力
明石市の事例は、悪質なクレーム対応という困難な課題に対し、単なる対症療法ではなく、専門職の力を借りることで根本的な解決を図った成功例と言えます。公務員が精神的な負担から解放され、それぞれの専門性を活かして市民のために働くことができる環境を整備することは、地方自治体全体のサービスの質を高め、市民の信頼を得る上で不可欠です。今後も、このような専門職の活用が、より良い社会を築くための鍵となるでしょう。
参考文献
- 泉房穂. 『公務員のすすめ 世の中を変える地方自治体の仕事』. 小学館新書, 2025.





