イランが深刻な地盤沈下に直面し、首都テヘランをはじめとする都市機能や文化遺産への影響が懸念されています。この記事では、イランの地盤沈下の現状、原因、そして今後の課題について詳しく解説します。
テヘランの危機:沈みゆく首都
首都テヘランでは、地盤沈下が急速に進行しており、毎年最大31センチも沈下している地域もあると報告されています。この深刻な状況は、空港、鉄道、道路などの重要なインフラに損害を与え、市民生活に大きな影響を及ぼしています。送電塔の傾斜や高速道路の損傷など、具体的な被害も報告されており、人々の不安は高まるばかりです。フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、テヘラン市議会議員は「大規模な地盤沈下はインフラの破壊だけでなく、人命にも危険を及ぼす可能性がある」と危機感を募らせています。
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地盤沈下の原因:気候変動と水管理の失敗
イランの地盤沈下の主な原因は、気候変動による長期的な干ばつと、数十年にわたる非効率的な水管理にあるとされています。地下水の過剰な汲み上げは地盤沈下を加速させる大きな要因となっており、専門家からは早急な対策が必要とされています。イスファハーン・イスラム・アザード大学地盤工学科のバフラム・ナディ教授は、都市の拡張と開発も地盤沈下を悪化させていると指摘しています。
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遷都計画:現実的な解決策となるか?
地盤沈下の深刻化を受け、ペゼシュキアン大統領はテヘランから他の都市への遷都を提案しました。しかし、専門家の間では遷都計画の実現可能性に疑問の声が上がっており、長年にわたる遷都論争が再燃しています。水資源が豊富なマクランが有力な候補地として挙げられていますが、遷都には莫大な費用と時間が必要となるため、実現には多くの課題が残されています。
文化遺産への影響:ユネスコ世界遺産にも危機
地盤沈下の影響は、古代都市ペルセポリスなどのユネスコ世界遺産にも及んでいます。イスファハーンのジャーメ・モスクでは、建物の柱が傾いたり、ひび割れが生じたりするなどの被害が報告されています。ユネスコのイラン国家委員会事務総長は、遺跡の保護が適切に行われなければ、世界遺産登録の取り消しという最悪の事態も想定されると警告を発しています。
今後の課題:持続可能な水管理と国際協力
イランの地盤沈下問題を解決するためには、持続可能な水管理の実現と国際協力が不可欠です。地下水の過剰な汲み上げを抑制し、効率的な灌漑システムを導入するなど、抜本的な対策が必要です。また、米国の制裁によってイラン経済が疲弊している現状も、問題解決を難航させている要因の一つとなっています。国際社会の支援と協力が、イランの未来を守るために必要不可欠です。
イラン国際地震工学・地震学研究所のマフディ・ザレ教授は、「現在の農業と都市計画政策が続けば、イラン全域で地盤沈下がさらに加速するだろう」と警鐘を鳴らしています。イランの地盤沈下問題は、単なる環境問題にとどまらず、社会、経済、文化に深刻な影響を与える国家的な危機です。一刻も早い対策が求められています。