SNS上では、「残クレ」と「アルファード」がある種のバズワードになっているようです。クルマを残クレで買うことは本当にお得なのでしょうか? デメリットはないのか、勘違いしている人が多い金利と残価の設定について解説します。(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一)
● 「残クレ」とトヨタ「アルファード」 なぜこんなに注目される?
クルマの買い方で何かと注目されているのが「残価設定型クレジット」、通称「残クレ」と呼ばれる自動車ローンです。
トヨタファイナンスが発行するクレジットカード会社のホームページによると、「20〜40代では75%以上の方が残価設定型クレジットを選択して契約されています」「年収600万円未満では約78%が、年収600万以上では約70%が残価設定型クレジットを選択されています」などと盛んに宣伝されています。
はたして残クレは本当にお得なのでしょうか?
残クレとは、クルマの価格から残存価格(将来の価値)を差し引いて、残りを分割で支払う方式です。例えば500万円するクルマを、5年後の残価が200万円になると設定して、300万円分を分割で支払います。
ここで重要なポイントは、金利は分割で支払う300万円に掛かるのではなく、全体の500万円に掛かること。利率は店舗によって異なりますが、残クレの場合4〜10%といわれています。
この残クレの金利は、一般的なディーラーのオートローンと同程度です。一方で、銀行のマイカーローンを利用すると利率は1〜5%程度が相場であり、場合によっては1%を切ることもあります。つまり、金利分だけを考えると残クレのほうが余分な支払いが生じることになります。
設定する残価にも、ちょっとしたカラクリがあります。ボディをぶつけたり、こすったりしてキズを付けてしまった場合、想定よりクルマの状態が悪いとみなされ設定した残価より価格が低くなってしまうため、追加で費用を請求される場合があるのです。
また、走行距離も決められていて、オーバーするとこれも追加費用の対象となります。契約内容や車種によって異なりますが、1kmあたり5〜10円が追加費用の相場なので、1万kmオーバーで10万円の追加費用が請求されるということです。
こうした背景には、日本は中古車査定に異常に厳しい事情が挙げられます。ほんの少し傷が付いても、査定額は下がってしまいますからね。
このため残クレを利用するとクルマをキズつけないように、走行距離をオーバーしないように常に気を遣って乗るようになり、ストレスがたまるという話をよく耳にします。逆に走行距離が短くても、キズが全くない状態であっても残価設定が上向くことにはならず、ディーラー側が有利になっています。
もちろん、改造やドレスアップは厳禁です。契約期間終了時にノーマル状態に戻せば問題はないでしょうが、工賃などを考えるとかなり出費がかさむことになります。
ちなみに筆者が先日、チューニングパーツメーカーを取材した際に、現行アルファードのサスペンションパーツの売れ行きが微妙だと聞きました。そのメーカーでは、「アルファードは残クレで乗られていることが多いので、パーツの売れ行きが悪いのでは」と分析していました。
契約期間の途中で乗り換える際には、残債を全て支払った上で解約します。新しいクルマが出ると乗り換えたくなるようなクルマ好きには、残クレは向いていません。
残クレで怖いのが、全損事故です。全損事故の場合、残価を含めたローン残額の一括返済を求められることがあります。車両保険に入っていれば保険で補填できますが、万が一保険に入っていないと大変です。残クレでも車両保険、それも自損事故をカバーする保険に加入しておくのが非常に重要です。
残クレにはメリットもありますが、デメリットもよく理解した上で検討しましょう。特に金利は重要で、場合によっては残クレのほうがトータルの支払額が増える可能性もあります。
本稿をまとめるにあたり、さまざまなネット情報も参照しました。その中には、残クレと通常ローンを比較した表で、通常ローンの利率を高くしている悪質な例もありました。残クレを検討する際は、自分が使えるローンの利率と残クレの利率をきちんと比較しましょう。
諸星陽一